神奈川県の鷹取山をご存知ですか?垂直に切り立った岩が壁のように次々と現れ、その奥にたたずむ巨大仏像が、なんだか古代遺跡のような、いにしえの雰囲気が満載の山です。そして壁のような岩を求めて沢山のロッククライマーが集まる人気の場所でもあります。クライミングで古くから根強い人気の場所ということで、名作マンガの舞台にもなりました。クライミングだけではなく、初心者向けのハイキングコースもあります。ちょっとした冒険気分で、古代遺跡風の景色を楽しめる鷹取山をご紹介します。
名作マンガの聖地巡礼として人気
神奈川県にある鷹取山は、第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞作品『孤高の人(ここうのひと)』の舞台となった場所です。
『孤高の人』は、同タイトルの小説を原案とした作品です。主人公が鷹取山の岩に魅せられ、山に興味を持ち、登頂の難易度ではエベレストよりも上とされるパキスタン・中国のカラコルム山脈の山「K2(ケーツー)」への登頂を果たすという作品です(ただし、小説版では神戸の「高取山」が舞台)。
鷹取山ってどんな山?
世界最高難度の山を目指しちゃうマンガの舞台ですから、さぞ険しい山なんだろうと思うかもしれませんが、鷹取山は標高たった139mのとっても小さい山なんです。
日本の高層建築と比較してみると、例えば大阪の「あべのハルカス」は高さ300m、神奈川の「横浜ランドマークタワー」が296m、東京の「ミッドタウン・タワー」は248mなので、鷹取山は建築物よりも小さいとーっても可愛い山。
そんな可愛い山が、硬派なマンガの舞台になったのは、鷹取山は近隣の山にはない珍しい特徴を持っているからなんです。
鷹取山の特徴は、垂直に切り立った岩々
鷹取山の特徴とは、この垂直に切り立った岩!岩の表面がぶつぶつしていますよね。これは、ロッククライミングの時に使用するハーケン(クライミングの時、安全確保のために岩に打ち込むくさび)の跡です。そう、ここはロッククライミングの練習場所として人気の場所なんです。
ですがこの岩はもともと垂直というわけではありませんでした。鷹取山の岩が建築・土木の石材に適した、火山灰や砂などが固まってできた凝灰岩であるため、かつては岩切場となっていたのです。
ロッククライマーにも人気の場所
後に岩切場として使われなくなると、ロッククライミングの練習場に使う人々で賑わうようになりました。この時だいたい1950年頃。このあたりの時代は、日本で最初の登山ブームが起こった時代です。日本の山岳会がヒマラヤ山脈に登頂したことがきっかけとなって、大学生や会社員の間で硬派な登山に熱中する人が増えていったのです。
そうした人々に目をつけられたのが鷹取山。もう岩切場として使われなくなった切り立った岩壁は、当時の人々には、きっとヒマラヤに見えていたのかも知れません。
当時の熱狂的な登山ブームに支えられ、鷹取山では岩切場までのハイキングコースも整備されていきました。その結果、駅から30分ほどでヒマラヤに行ける場所として人気が加速したのです。
ロッククライミングをするには事前の申請が必要
鷹取山では以前、岩が柔らかくハーケンが抜けたことによる転落事故が発生したため、現在ではハーケンを使用するスタイルのロッククライミングは禁止されています。また、ロッククライミングをする場合は、事前に鷹取山安全登山協議会への届け出が必要となります。
鷹取山への歩き始めはJR東逗子駅から
さて、それではいよいよ鷹取山に登ってみましょう。鷹取山へは、山を囲んで北東に京浜急行・追浜駅、西に京浜急行・神武寺駅、南西にJR東逗子駅といくつかルートがあります。今回は、小さい山とは思えない、起伏にとんだJR東逗子駅からのルートを紹介します。
鷹取山のある逗子市のホームページに掲載されている神武寺・鷹取山コースを参考に、岩切場のある鷹取山公園を目指します。
一般道からハイキングコースへ
東逗子駅の改札口は南向きにあります。鷹取山に対して背を向くような方向になっているので、改札を出たらすぐに踏切を越えて、真逆の北側に歩きます。
道なりに歩いていくと、右手に「天台宗 神武寺」と書かれた石碑が建つ階段があるので、そこを登っていきます。石碑の傍らには「神武寺 鷹取山 登山口」とはっきり書かれているので、迷うことはないはず。
最初はしっかりと舗装された道を歩いていきますが、徐々に山らしさが現れてきます。やはり岩がちな山のため、足元は荒々しい岩の路面です。靴底を通して足の裏から伝わる感触は、石畳を歩いているような感じです。
小さい山ながら、緑深い山のため日陰の部分には苔が見られます。あっという間に一般道から、苔に囲まれた景色に変わるので、なんだか魔法に掛けられたようです。
神武寺(じんむじ)
しばらく坂道や階段を登っていくと、すっと道幅が広くなります。奥には6本の柱に支えられた門が見えます。これが、神武寺の入り口です。
奈良時代に、聖武天皇の命を受けた行基というお坊さんが、この土地に仏像を祀ったことが神武寺の始まりです。ちなみに聖武天皇と行基のタッグは、誰もが知るあのお寺と仏像を作った人です。そう、このタッグは、あの奈良の東大寺の大仏を建てたふたりです。
奈良時代は、天候不順や災害などによる飢饉、伝染病など人々が生きるのに厳しい時代でした。聖武天皇と行基は、仏にお祈りして災いを払うためにこの地にもお寺を建てたんですね。
鷹取山の中にある境内は、気やすく入り込めない高潔な雰囲気があります。ここは修験道の霊場としても使われていたり、さらにその昔から山岳信仰の霊場だったので、なるほどと思わせる神々しい気配です。
門をくぐってさらに階段を登っていくと、朱色の門と、仏堂があります。
この仏堂は薬師堂です。この中に安置されている薬師三尊像は、33年に一度だけ御開帳される秘仏です。2017年4~5月に御開帳されたので、次のタイミングはなんと2050年!そんなに待てないという方は、毎年12月13日にすす払いが行われているので、もしかしたらそこで見れるチャンスがあるかもしれません。
冒険気分のハイキングコース
神武寺を抜けると、さらにハイキングコースは大きな岩がどんどん出てくる荒々しい雰囲気に。
このあたりから、巨大な岩がちらほらと見え始めます。道の真ん中に通せんぼするようなものも。
これまで石畳のような歩きやすいコースだったものから、体をつかって登っていくような面白い道に変化します。
中にはこんな風に、岩の隙間を歩くような道も。ここまで山の表情が変化するとは嬉しい驚きです。
途中には、鎖を使って岩面をよじ登っていくような道もあります。写真では険しく見えますが、実はチビッ子でも楽しみながら登っていける場所です。