奈良市の近鉄奈良駅の南に広がる奈良町(ならまち)界隈は、歩いて楽しい観光スポット。細く入り組んだ路地に歴史ある木造家屋が並ぶ様子は、どこか懐かしさを感じさせてくれるものです。近年では古い建物を生かしたカフェなども増え、多くの人が訪れています。今回は、短時間で奈良らしさを感じていただけるよう、資料館、カフェと地酒のお店の3つに絞って紹介します。
奈良町とは
奈良町は、奈良の旧市街地にある、伝統的町並みが残る地域です。この地域が発展し始めたのは、奈良時代のこと。平城京の下京として社寺が置かれ、それから長い間都市機能を維持してきました。
中世以降は、多くの産業も発展しました。その内容は、酒や醤油の醸造、墨や筆、布団や蚊帳(かや)など多岐にわたります。
明治以降は、奈良市の商業中心として栄えます。第二次世界大戦の戦火を免れましたが、戦後は町のにぎわいが近鉄奈良駅を中心としたエリアに移りました。
落ち着いた住宅地になってしまった奈良町では、若者を中心にまちづくりの機運が高まり、江戸時代以降の町屋の面影を残す家屋が整備されました。現在では、奈良市有数の観光スポットになっています。
見学無料の奈良町資料館
奈良町には、無料で見学できる資料館がいくつかあります。その一つ、奈良町資料館は、奈良町に残る信仰や習わしなどからくる「奈良町らしさ」や、奈良町の魅力を後世に伝えるための施設です。館内には古い美術品や生活用具、懐かしい絵看板、奈良町の民俗資料などが展示されています。
軒先の赤いぬいぐるみ
奈良町を歩いていると、軒先に赤いぬいぐるみが吊るされているのを見かけます。上の資料館の外観写真にも写っていますね。これは、庚申(こうしん)さんの身代わり申(さる)という、お守りなのです。
庚申さんとは、青面金剛像(しょうめんこんごうぞう)という仏像のことで、この奈良町資料館にも祀られています。
庚申信仰は、江戸時代に民間信仰として庶民にも広まりました。現在も奈良町にはこの信仰が残り、家の中に災いが入ってこないように、この庚申さんの身代わりである「赤いぬいぐるみ」を吊るしているのです。
お水取りのたいまつや、江戸時代の絵看板などの展示も
東大寺二月堂で行われる伝統行事「修二会(しゅにえ)」は、二月堂の本尊十一面観音に、僧侶が人々に代わって、日ごろの罪を懺悔(さんげ)し、国家の安泰や人々の幸福を祈る法要です。1,200年以上にわたり、欠かさず続けられてきました。
行事は、毎年3月1日より2週間にわたって続きます。3月12日深夜には、お水取りと言い、若狭井(わかさい)という井戸から、観音さまに供える「お香水(おこうずい)」を汲みあげる儀式が行われます。
また、これを勤める練行衆(れんぎょうしゅう)の道明かりとして、毎晩松明(たいまつ)が焚かれます。このため、修二会は、「お水取り」、「お松明」と呼ばれるようになりました。
写真は、お松明の中でもひときわ大きな籠松明(かごたいまつ)で、長さ約6m、重さは約80kgもあるそうです。松明には根が付いた竹が使われており、その先端は、杉の薄板、ヘギ(木を薄く削ったもの)、杉の葉により、籠目状に仕上げられています。
上の写真は、絵看板と呼ばれ、江戸時代から明治時代に、店の軒先などに吊るされていたものです。厚い木製の絵看板は、現在の多くの看板と比べると、とても重厚な印象です。