夫が在宅勤務になって、モラハラが激化

 ところが、かろうじて保ってきた繊細な家族間のバランスが一気に崩れました。新型コロナウイルスの影響です。

「夫が毎日テレワークになったんです。夫の在宅中、一挙一動を監視されているようで、何かのきっかけで夫の機嫌を損ねるのではないか、暴言を吐かれるのではないかと、気の張りつめた日が続きました」

DVから逃げた後の貧困。離婚前の“プレひとり親”を苦しめる「制度のすき間」
(画像=『女子SPA!』より引用)

少しずつ田中さんの気持ちが蝕(むしば)まれていき、気づくと自宅でご飯を食べることができなくなっていました。買い物に出るふりをして、近くのカフェや公園で軽食をかきこんで急いで帰宅する日々が続きます。子どもからは「お母さんはいつご飯を食べてるの?」と心配されることもあったといいます。

ボストンバッグ1つで家を飛び出した日のこと

 年が明けた頃、職場のストレスと身内の不幸が重なり、夫の不満が家族に向かいます。暴言に拍車がかかり、ささいなことが夫の逆鱗(げきりん)に触れて怒鳴り散らされる日々が続きました。夫婦の不仲を肌で感じ取っていた子どもが、泣きながら学校に行く日もありました。

 そんな中、とうとう田中さんが離婚を決意した「事件」が勃発します。

「夫が、仕事で使うものを紛失したんです。目が血走った状態で一晩中探し続け、私や息子のせいだと寝ずに罵倒(ばとう)しながら部屋中を荒らし、思い出すのもはばかられるような息子への罵詈雑言(ばりぞうごん)を放ちました。そのとき、張り詰めてきた心の糸がプツンと切れたような気がしました。

 朝、夫が仕事のために自室に入ったのを見はからって近所の公園で自治体の女性センターに電話をかけると『家にいないほうがいい。避難してください』という助言を受けました」

DVから逃げた後の貧困。離婚前の“プレひとり親”を苦しめる「制度のすき間」
(画像=『女子SPA!』より引用)

電話口で「シェルター」と呼ばれる保護施設の使用も勧められましたが、利用中に子どもが通学できなくなること、通信機器は使えず外部と連絡を取れなくなることを聞き、いったんホテルへの避難を決めました。

「夫が自室で仕事をしている間に無我夢中でボストンバッグに荷物を詰め、隣町のホテルに駆け込みました」