捨てられたら生きていけないとわかっているのに

 夫より一回り年下の忍には、夫にはない「自己実現への欲求」がある。彼女にとってはそれが「漫画」だった。それなのに自分には才能がないと思い込み、家事育児に“逃げて”いた。久々にやってきたチャンスに、エネルギーをためていた彼女は正面から向き合った。連載が決まったことを知った夫は、妻が別世界に行ってしまうのではないかと不安が募る。これが妻に依存している証拠である。だから妻を圧迫する。  漫画に打ち込み、美青年のアシスタントに笑顔を見せる妻を、経済力だけで牛耳ってきた夫が不安になるのは当然なのかもしれない。

 その後、洋平は妻にこうつぶやく。 「オレと別れるとか……ないよな」  捨てられたら生きていけないのは夫のほう。心のどこかで夫もそれをわかっているのだ。はっきり意識しているかどうかは別として。

アシスタントがいる隣の部屋で、妻を襲った夫の心理は

 忍は千秋が、年上の女性を相手にしてお金を得ていたことを知ってショックを受ける。そのことを忍が知ってしまったとわかった千秋もまた衝撃を受ける。このふたりは根っこが似ているのかもしれない。どこか純粋で、つらくてもつらいと言えなくて。ふたりの純粋な部分が反応しあい、互いの心がわかるだけに避けようとする本能が働くのかもしれない。

 だから、千秋から本気で「助けて」と連絡があったとき、忍は何を置いても駆け出していく。千秋の心を守るために。 そして千秋を連れ帰った忍に、洋平はえげつない行動をとる。隣の部屋に千秋がいるのに、妻を「夫婦だから」と寝室に誘い込んで襲うのだ。抵抗されてあえなく「もういいよ」と怒って背を向けるのだが、明らかに夫婦の行為を隣に聞かせたかったのだろう。 「この女はオレのものだ」と言いたいがために。

 洋平の妻へのこの言動は「所有」をアピールしたいだけ。だが当の忍と千秋は、お互いの心の奥底に流れるものが似ていることに気づいている。だから惹かれてしまうことにも。 「好きになってはいけない人」はいない。だが、「好きになって、その気持ちを行動に移したら、とてつもなく自分も周りも混乱するであろう相手」は存在する。 冷静であろうとしている忍だが、内に秘めたエネルギーがいつ千秋に向かうかはわからない。そんな波乱の予感がある4回目だった。

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<文/亀山早苗> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 亀山早苗 フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio

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