今回、イーストウッド作品史上初解禁となる『クライ・マッチョ』5分の本編冒頭映像は、朝日を浴びながらテキサスの広大な白然を悠々と走る一台のピックアップトラックの描写で始まる。牧場に到着したマイクが車から降りる。1979 年、いつものように仕事場に到着した彼を、雇用主のハワード(ドワイト・ヨーカム)が待ち受けている。腕時計を確認し、遅刻だと文句をつける。彼の横にはカウボーイがひとり。「昔は競争相手がお前を狙ったよ。2 歳馬レースで 5 度も優勝。“今度こそマイクを失う”と毎回おびえたぜ。“引き抜かれる”って。遥か昔の話だよ」と一気呵成にまくし立てる。ハワードの勢いは止まらない。「そうとも。馬での事故の前だ。薬漬けになる前。酒におぼれる前。今、うちの厩舎には二流の馬しかいない。調教師も同じだ。もうお前を失っても構わん。何の価値もない。新しい血が必要だ」「荷物の整理だ。済んだら出ていけ」とクビを宣告する。「あんたは昔からケチでヤワな根性なしだったな。だが、今さら言っても直りゃしねえだろう」とマイクはもはや未練はないとばかりにその場を後にする。

場面はマイクの家に変わる。庭で夕刻のひとときを過ごすマイクをとらえたカメラは、ロデオの受賞メダルや写真が飾られた部屋の中へと移動する。“マイク・マイロ ロデオ連勝”、“マイク・マイロ 華麗なるロデオの復活”など、かつての栄光を伝える新聞記事が並ぶ。そして“テキサスのロデオスター落馬で負傷”の記事へとフォーカスされ、彼の人生を一変させた落馬事故、人生転落の瞬間をモノクロの映像で見事に映し出す。マイクの過去と半生が伝わるこの映像は僅か 1 分、イーストウッドの手腕が冴える見事な描写となっている。