初のオスカー受賞作『許されざる者』が全米公開されたのは 1992 年。年老いた元悪党マーニーには子どもがふたり。夭折した妻との出会いで心を入れ替え、貧しい土地を耕し、豚を飼って生計を立てている。このままでは幼い子どもたちの将来はない。人生崖っぷちの男の前に若きガンマンが現れて「娼婦を傷つけた男」に懸賞金がかかっていると囁いた。二度目のオスカー受賞作『ミリオンダラー・ベイビー』(04)では、逸材を育てながらも他のジムに移籍されてしまったボクシングジムを経営するトレーナーを演じた。ある日、毎日教会に通う彼の前に、人生の“崖っぷち”から這い上がろうとする女性ボクサーが現れる。

老い先を見定めることの出来ない退役軍人が、モン族の少年と出会うことで生きる意味を見出した『グラン・トリノ』(08)。農園も自宅も抵当に入り、疎遠となった家族からも見放された“崖っぷち”の男はメキシコの麻薬カルテルの『運び屋』(18)を引き受ける。実話の映画化作品『リチャード・ジュエル』(19)では、爆破物を発見して英雄とされた警備員が、メディアによってテロの容疑者とされ崖っぷちに追いつめられた。イーストウッドは、人生の“崖っぷち”にいる人物を描いてきた。現在公開中の『クライ・マッチョ』でイーストウッドが演じているのは、落馬事故で人生が暗転した元ロデオスターのマイク・マイロだ。