いつしか小さなトゲがたくさん刺さっていることに気づく

 この夫、本当に悪気はないのだろう。妻の誕生日を忘れていたことを息子に指摘されたとき、「なーんだー、言ってよ-」と騒ぐ。言わなければ思い出さないのであれば、言う必要もないだろうと女性は思う。

編集者に会いに行って遅くなったとき、忍は家族分のお弁当を買って帰る。そのくらいの“手抜き”を、今どきの夫は気にしない。弁当の蓋を開けながら「箸がない」と言い、アイロンがけをしている忍が思わず「あ、ごめん」と立ち上がろうとすると息子が「そのくらい自分でやれよ」と父親に箸を渡す。ここもまた、今どき夫婦、今どきの中学生の息子がよく表現されている。

 日常生活で特に妻に文句を言うわけではない。夕飯として、買ったお弁当が出てきても「どうして手作りしないの?」とは言わない。もし言ったら、それは第一級モラハラだろう。洋平のモラハラはもっと小さいトゲなのだ。だが繰り返されることで、ボディブローのように妻の心身に効いてくる。いちいち大騒ぎして怒るほどのことではないが、いつしか小さなトゲがたくさん体に突き刺さっていることに気づくという類いのもの。

モラハラ夫を組み敷き「黙って」。凄みあるベッドシーン

 妖しい美青年の千秋に水族館への取材に同行してもらった夜。忍は夫を誘う。夫がその気になると、忍はいきなり夫の上に馬乗りになる。妻がそんな形で欲求を見せたことはかつてなかったに違いない。戸惑う夫に、忍は上から「黙って」とつぶやき、自らの快感をひたすら求めていく。  このシーンは、下から忍の表情を写すカメラワークも手伝って、妙な凄みがあった。夫を組み敷き、しかも彼女は夫の顔など見ず、自分の快感だけを追求する。脳内で千秋の姿、その繊細な表情を再現しながら。夫を「ただの道具」扱いしているのが小気味よく感じられるほどだ。夫へのささやかな復讐と、千秋への情熱が、彼女をそんな行為に導いたのだろうか。

 この先、千秋との関係が展開していきそうだが、彼女の夫への気持ちもまた変化があるのかもしれない。

【前回記事】⇒40歳妻を誘惑する、22歳男子の目的は?『シジュウカラ』山口紗弥加の演技が光る

<文/亀山早苗> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 亀山早苗 フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio

提供・女子SPA!



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