山口紗弥加と板垣李光人の“年の差ラブストーリー”『シジュウカラ』(テレビ東京系)。話題のドラマを、夫婦関係・不倫について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。

小さなトゲのようなモラハラを繰り出す夫

 40歳にして恋と仕事、両方の大チャンスが到来した綿貫忍(山口紗弥加)。イケメンにして妖艶な雰囲気を漂わせる18歳年下の謎の美青年アシスタントの橘千秋(板垣李光人)に、振り回されそうで振り回されないのは彼女の漫画家としてもっている客観性のせいか、はたまた人生経験の豊富さか。

 都心から少し遠いとはいえ、なかなかおしゃれな一軒家に住み、一回り年上の夫は暴力をふるったり借金をしたりはしなさそう。かつて夫は浮気をしたことがあるようだが、忍はそれを心の中で封印している。

 現在は、まあまあの結婚生活を送っていると周りからは見られているだろう。ところがこの夫・洋平(宮崎吐夢)、まるで小さなトゲを手裏剣のように投げてくるヤツなのだ。いちいちひっかかる。いちいちむかつくと思う女性たちは多いのではないだろうか。演じている宮崎吐夢本人が、ドラマのホームページに「無自覚に傷つけ続けるモラハラ夫にイラッとした」と語っているほどだ。

小さなトゲのような「今どきのモラハラ」を繰り出す夫

 たとえばこんなシーンがある。読み切りの仕事が終わり、炊事をしている忍に、「忍ちゃん、暇なの?」と声をかける。仕事が終わったからねという妻。もう描かないのと夫。今回の結果次第かなと妻。すると夫はつまみの缶詰を自分で開けながら、「でもさ、最後に描けてよかったじゃん」「忍ちゃんみたいな普通の人が」と言い放つ。まさに今どきのモラハラである。

 昔のいわゆる“亭主関白な夫”だったら、まず漫画を描くことを許さないだろう。だからもし描くなら妻は夫には話さない。今どきの夫は、妻が好きなことをするのはかまわないのだ。さらにつまみの缶詰を自分で開けているのも、今風だ。昔の夫はつまみさえ妻に用意させたものだから。

 そうやってほんの少し生活上も自立しているふうを見せながら、そして妻の気持ちに寄り添っているように感じさせながら、「最後に描けて」と、あたかも妻の仕事が続かないのを前提にものを言っているところが、完全に下に見ている証拠。しかも「忍ちゃんみたいな普通の人が」というのはなにをかいわんや。漫画家は特別な才能がなければなれないと敬意を表しているようで、自分の妻は決してそんな才能があるはずがないと言っているのだ。

 妻を「ちゃん」づけで呼んでいるのは、「ママ」と呼ぶよりずっとマシではあるが、「年下だから」と上から目線になっている可能性もある。