映画『共喰い』での凄まじい演技

菅田将暉の王道イケメンではない魅力。独走状態を助けた“ある人物の言葉”とは

(画像=『女子SPA!』より引用)
『共喰い』公式サイトより

 菅田の出演作の中でも特に筆者が驚き、その才能に惚れ込んだのは、青山真治監督作『共喰い』(2013)だ。2009年のデビューから2021年現在までの菅田の出演作どころか、2000年代の日本映画作品中でも指折りの名作であるこの作品の衝撃度は、凄まじい。

 田中慎弥の同名芥川賞受賞作を原作とした本作では、山口県下関市を舞台に、暴力的な性癖を持つ父・円(光石研)を忌み嫌いながらも、自分も父と同じ性癖を発揮してしまう高校生・遠馬(菅田将暉)の過酷な現実が克明に描かれる。物語自体非常に衝撃度が高い作品だが、本作で菅田は、17歳の多感な時期を迎えた遠馬の複雑な青春を体当たりの演技で点描してみせた。

 菅田が演じる遠馬は、驚くほど簡潔でリアルで生々しい。17歳の高校生の青春は確かに等身大の感情だが、それにしてはあまりに翳りとアクが強い。こうしたキャラクター造形は、青山監督作のひとつの特徴である。

『サッド ヴァケイション』(2007)でバイクを駆動させる高良健吾や『空に住む』(2020)でワイングラスを持つ窓辺の岩田剛典など、どこか翳りがあって不良ぶりたいキャラクターたち。その代表格として遠馬を演じる当時の菅田にとっては相当挑戦的な難役であっただろう。

俳優人生を変えた青山監督の言葉

 日本テレビ系『成功の遺伝子』2018年3月4日放送回で、遠馬役について振り返りながら、青山監督から次のようなアドバイスを受けたことを明かした。

 “お前の芝居はまだ1/4拍子なんだよ。ミュージシャンは1/16まで考えなきゃいけない”

「ミュージシャンは1/16」というのは、つまりより細かくビートを刻むことで、細部まで丁寧に役を作り上げて演じなければいけないことを意味している。毎晩のように集まっていたロケ地の居酒屋で青山監督から唐突に吐かれたこの言葉は、菅田の俳優人生を180度変えることになった。まさにコペルニクス的大転換の瞬間だった。

 以来、菅田は単なる若手イケメン俳優ではなくなった。菅田が元々持っていた翳りの雰囲気が、遠馬役を通じて一気に全身から放出されていく。ミュージシャンのように「1/16」のビートを刻む俳優となった菅田は、事実、2017年6月7日にシングル『見たこともない景色』でソロ歌手デビューを果たしたのだ。