お酒や人と話すことが好きで、バーに行くことがある人も多いのでは。でも、そこで言ってはいけない一言、言っていませんか。『DRESS』でお届けする3月特集は「どうして伝わらないの」。渋谷でbar bossaを経営する林伸次さんに「バーでのコミュニケーション」をテーマに寄稿いただきました。

昔、あるアメリカ映画を観ていたらこんなシーンがありました。

これから初めてのパーティに参加する小学校低学年くらいの息子に、お父さんがこんなことを言うんです。

「いいか、パーティっていうのは、ピザやケーキを食べたりコーラを飲んだりするところじゃないんだ。誰かと会話を楽しむところなんだ。パーティ会場に行って、食べ物の列に並んだりするんじゃないぞ。

そしてパーティでは自分の話ばかりしてはいけない。誰かがみっつ話したら、やっとおまえはひとつ、自分の話をしてもいい。いいか、このふたつのことだけは守るんだぞ」

このシーンを見て、「そうかあ、アメリカ人にとってパーティはとても重要で、こんな小さいときから、パーティでの振る舞い方をお父さんが指導するんだ」と驚きました。

「食べ物の列に並ばない」と「誰かがみっつ話したら、自分の話をひとつしていい」というのは、この映画の中のお父さんのルールですが、他のお父さんはまた別の、例えば「誰かの悪口を言ってはいけない」といったルールを、そしてまた他のお父さんはそのお父さんならではの別のルールを、教えてるんでしょうね。

あなたは親にそんな「パーティでの振る舞い方」のことを教えられたことはありますか? ないですよね。たぶん、僕たち日本人はとにかく「パーティ下手」だし、「初対面で親しく会話を楽しむ」って苦手なんだと思います。

■バーテンダーがお客様と接するときのルール

「このお店、よく来るんですか?」は言ってはいけない
(画像=『DRESS』より引用)

バーテンダーにもいろいろなルールがあります。

一番有名なのは、「初めてのお客様には常連のように、常連のお客様には初めてのように接しなさい」というものです。お客様との距離感を大切にというルールですね。

あと、これはお店にもよるのですが、僕が修行したバーでは「お客様の職業を聞いてはいけない」というものがありました。

お客様にはお客様のいろいろな事情があり、「その職業の殻を脱ぎ捨ててゆっくり飲みたい」と思っているかもしれない場合があるからです。

そして有名なのは、「政治と宗教の話をしてはいけない」というのもあります。これも皆さん、さまざまな事情がありますから、わざわざ楽しく飲んでいる席でそんな話はやめようという気持ちです。

■「このお店、よく来るんですか?」はNGワード

「このお店、よく来るんですか?」は言ってはいけない
(画像=『DRESS』より引用)

さて、隣に座っているお客様同士が、何かのきっかけで会話を始めることがあります。

そんなとき、多くの方が言いがちなのですが、それはやめた方がいい「NGワード」があります。

「このお店、よく来るんですか?」

これ、どうしてだかわかりますか? 言ってしまいがちですよね。でも、ダメなんです。

というのは、目の前にバーテンダーやお店のスタッフがいるわけですよね。「自分はよく来てる方なのかどうなのか」、普通はそんな簡単には答えにくいんです。

例えば「1カ月に1回は来てる」としますよね。そのくらいの頻度が、「そのお店で常連のようなふりをしていいのかどうか」ってお客様同士ではわからないし、言いにくいんです。

それに、「たくさん通ってる方が偉い」とか「店のスタッフとより仲良しの方が偉い」とか、いろいろな争いが始まることもあります。

「このお店、よく来るんですか?」は意外と皆さんが知らない「NGワード」です。

■「何を飲んでいるんですか?」から始めるのはスマート

最所に話しかける言葉で一番スマートなのは、「何を飲んでいるんですか?」です。それがワインであれば、「ワイン、お好きなんですか?」と続けられます。是非、お試しください。

あと、男性が女性に「近くに住んでいるんですか?」と質問するときがあります。これも比較的「NGワード」です。

ついつい皆さん聞いてしまうのですが、女性は初めて会った人に「住んでいる場所」を教えたくないということがあります。「住んでいる場所」は聞かない方がいいです。

どうしても「この街の話」をしたい場合は、「このあたりで、このお店以外に美味しいお店は知ってますか?」です。お試しください。

■ありがちな質問は、「退屈な人だな」と思われる

最近、日本の街には外国人が増えましたが、外国人と話すときも「NG」ではないのですが、「この人、退屈だなあ」と思われる会話があります。

「日本語うまいですね。日本にはどのくらい住んでるんですか? 日本に来るきっかけは?」

日本語のできる外国人って、街中でこの質問を毎日毎日、10年住んでいる人なら10年間ずっとされているんです。

事故で骨を折って入院したら、お見舞いに来る人全員に「その事故の話」をしなきゃいけなくて、ほんとつまらないって話、聞きますよね。あれと同じです。

他にも例を挙げてみます。その外国人が「ブラジル人」だとわかったとします。すると「ああ、ブラジルといえば、リオのカーニバルでしょ」という会話です。

例えばあなたが、イタリアの田舎のバルで、「日本といえば富士山でしょ」と言われたらどうですか? そうなんです。そういう会話って退屈なんです。

■「恋愛やデートの話」は誰とでも盛り上がりやすい

「このお店、よく来るんですか?」は言ってはいけない
(画像=『DRESS』より引用)

僕がおすすめするのは「恋愛やデートの話」です。

相手にもよりますが、「デートってどんなところに行くの?」とか「告白ってどうするの?」とか「日本にはラブホテルっていうのがあるんだけど、あなたの国にはそういうのある?」とか、そんな質問をするとすごく盛り上がります。

恋愛やデートの話は間違いありません。

これは世代の離れた人にも使えます。例えば老夫婦と隣になって話し始めたとします。まあそんなに共通のことがないので盛り上がりません。

「ふたりはどこで出会ったんですか?」とか「結婚してくださいってどんな風に伝えたんですか?」とか「結婚式はどんな感じでした?」「デートは?」といったことを質問するとすごく盛り上がります。

恋愛やデートの話は世界中、どの世代も興味があることなので、是非、お試しください。

Text/林伸次
1969年生まれ、徳島県出身。1997年、渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」をオープン。「cakes」で「ワイングラスのむこう側」を連載中。著書に『ちょっと困っている貴女へ バーのマスターからの47の返信』などがある。noteでも毎日コラムを発信している。


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