在日韓国人1世のルーツ探しでの出会い

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

最近増えているのが在日韓国人1世からの戸籍の確認や整理、一度故郷を見たい、族譜(チョッポ、一族の系図を記したもの)を探したい、という問合せです。私にもわからないことが多いのですが、韓国語を話せないお年寄りが一生懸命探しているのを見ると、何とかお手伝いしたいと思います。

総務課や戸籍課に協力してもらったり、自ら安東権氏(姓である権(クォン)の前につく地名は家系の始祖の出身地を示す本貫(ポングァン)と言われるもの)の宗家に訪ねるなどして調べたりします。
中でも1年半かけてお手伝いをした方が60年ぶりに親族に会うことができ、私もその場に立ち会わせてもらいましたが、涙が出ました。その時に、安東で公務員をしているからこそ、こうした出会いがあるのだと思い、途中で辞めたり放棄したりできないなと感じました。

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

上司の林(イム)係長と
普段、日本語で話す機会もないので、日本の方が訪ねて来ると嬉しいですし、役に立ちたいと自然に思います。観光、広報が私の主な業務ですが、在日韓国人1世の方のルーツ探しのお手伝いも行政サービスのひとつだと考えています。

安東市長も過去の歴史を乗り越えて民間で連帯感を持つことの必要性を感じておられるので、市長からは大変だろうが頑張ってほしいと言われています。この仕事には私一人の力ではなく、多くの方々の協力が不可欠なので、本当にたくさん助けて頂いています。

郷土意識の強い安東、方言にも苦戦

ソウルから安東に来て感じたことは、韓服(ハンボッ)を着ているお年寄りが多い、イベントの多くが儒教にまつわるもの、同族意識が強いということでしょうか。例えば同じ姓の金さんが初対面で挨拶する場合、ソウルでは日本と変わりませんが、安東では「どちらの金さんですか?」と本貫を尋ね、何派、何代目まで尋ねます。安東金氏や安東権氏の新年会が市民会館で盛大に行われているのを見ると、やっぱり違うなと思います。方言も大変でしたね。ソウルで3年間勉強したことが何一つ助けにならないと思ったほどで、安東に来て一から勉強しなおしました。

仲良しの友だちと結成した女性ばかりのジュジュクラブとは?

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

安東に来てしばらくは年齢の近い友だちができなくて、寂しい思いをしたこともあります。外国人ということで市庁の上司が気を遣って下さり、年齢の高い方々にいつも囲まれていました。友だちに言わせると近づきにくい雰囲気があったそうです(笑)。

市庁内にも年齢の近い友だちができると週末は友だちとマッサージやショッピングに出かけ、女性ばかりで酒酒(ジュジュ)クラブという会を作って週に1度、飲みにも行っていました。1次会は焼酎2本、2次会は爆弾酒、3次会は女性らしくバーでカクテルというのが定番です(笑)。

多くの人に祝福された伝統結婚式

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

2009年の5月に同じ市庁に勤める人と結婚しました。結婚式はせっかく安東にいることもあり、現代式ではなく、伝統結婚式にしました。チマチョゴリ(韓服、ハンボッ) ひとつ調えるにも何もわからないので、市庁の方々をはじめ友だちに1から10まで手伝ってもらいました。

この方たちがいなければ安東に6年間もいなかったと思います。サムルノリも呼んでお祭りのように賑やかな結婚式となり、多くの方が来て下さいました。安東での就職を反対していた日本の両親もとても喜んでくれて、たくさんの方に支えられているのを見て安心したと言ってくれました。

安東の魅力を子どもたちに、より多くの人たちに伝えたい

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

結婚をして、子どもももうすぐ生まれます。どこまでできるかわかりませんが、子どもには韓国と日本の文化を両方正しく教えていきたいし、偏見を持たずに2つの国を行き来して、橋渡しができるような子どもに育てたいです。

仕事の面では2013年に慶尚北道の道庁所在地が安東に移転することが決定したので、私も安東だけでなく、慶尚北道全体への知識を深めて、成長したいと思います。

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

河回村
安東には儒教文化の街という堅いイメージがありますが、難しいものではなく、日本人が昔見て、感じたような風景や風習が残っているのが安東だと思います。

河回村も両班(ヤンバン)の村と言われますが、私が行っても懐かしいと感じる風景であり、そこで出会う方々には田舎のおじいちゃん、おばあちゃんのような親しみを感じます。日本で見ることができない文化を安東で感じて頂けたらと思います。

韓国にぶつかって、自分の殻を破ろう

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

無謀な感じで韓国に来ましたが、そんな私を受け入れてくれたのが韓国。日本人には本音と建前がありますが、韓国人は本音、感情で生きていると思います。

時にはそれに振り回されるけれど、時には私を心から家族のように扱ってくれる情を感じます。これから韓国に行こうと考えている人には怖がらずに韓国にぶつかって行ってほしいですね。

自分の殻を破るには一番いい国だと思います。私も破れたというか、破られましたから(笑)。

★安東チムタク★

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

市場入口
安東名物と言えばチムタク。鶏まるごと一羽をぶつ切りにし、醤油、砂糖をベースにした甘辛いタレで煮込んだ料理。鶏肉の他に大きめに切ったジャガイモやタンミョン(春雨)、エホバッ(韓国カボチャ)、ニンジン、そして大量の唐辛子が入ります。

実は1980年代に登場した新しい料理で安東が発祥の地。安東市庁からすぐ近くにある安東旧市場(アンドンクシジャン)はチムタク専門店が軒を並べていることで有名。

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

市場の様子

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

卵型の看板はすべてチムタクの店

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

緒方さんにご紹介頂いたのが、市場入口すぐのチムタク専門店「チョンソン」。写真は1羽で20,000ウォン(3~4人前)。

辛いのは苦手だそうで、激辛の唐辛子(チョンヤンコチュ)は抜いてもらうそうです。今回も唐辛子を抜いてもらったので、ピリリと甘辛いという程度。鶏肉はやわらかく野菜もたっぷりです。

「チョンソン」
アクセス:安東市庁から徒歩5分。国道35号線を南へ。安東旧市場西ゲートすぐ。
電話:054-855-9457

第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)
第32回~緒方恵子さん(安東市庁)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

インタビューを終えて・・・

朗らかながらも、折り目正しい日本語で静かに話される緒方さん。外国人という立場で誠実に安東という文化に向き合って来られた真面目なご様子から、年齢層の高いお知り合いが多いというのにも頷けます。市庁内での取材中に「恵子さ~ん」と職員のおじさまから声をかけられるのを見ても、好感度抜群であることは間違いありません。自然が多く、スローペースな安東は故郷熊本と共通点があるとか。保守的で我が強い部分も熊本の人と安東の人は少し似ているそうです。偶然のめぐり合わせとは言え、安東とは深い所縁があるのでしょう。人との出会いに感謝しているという緒方さんですが、人との接点をきちんと紡ぎ出していこうと努力する方だという印象を強く受けました。

安東市庁

人口168,000の安東市の行政、財務、文化、教育、福祉を取り扱う。安東市は慶尚北道北部の中心都市であり、ソウル、釜山までそれぞれ3時間程度の距離にある。200を超える多様な文化財を保持し、歴史と文化の街として知られる。毎年秋に開催される「安東国際仮面舞フェスティバル」は有名。特産品は山芋、りんご、塩サバ、菊花茶、安東焼酎など。2013年には慶尚北道の道庁所在地となる予定。
住所:慶尚北道 安東市 市庁路6
電話番号:054-856-5701


提供・韓国旅行コネスト

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