第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

仕事を持ちながら地方から通って来る学生もいます。釜山や大邱(テグ)からKTXに乗ってソウルに来てチムジルバンに泊まり、翌朝は学校(午前中は学生に開放)で練習し、授業に参加してまた地元に戻るというような人も大勢います。その熱心さには感激しました。

よい材料を揃えるために、韓国洋菓子界の意識改革を目指す

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

学生それぞれに個性があるので、指導する難しさは日本も韓国も同じです。ただ韓国の学生はYES、NOをはっきり言うので面食らうこともありました。「美味しくない」と言われたり、出来上がりに満足できずに完成品を捨てたいと言ってきた学生もいました。

いずれの場合も曖昧にしないで、理由や原因など説明できることはきちんと伝え、その場で回答できなければ調べて話すようにしています。私自身ははっきり言ってもらう方がいいので不自由はありません。

レシピひとつをとっても、なぜこうなるのか?ということを本当に細かく聞いてきます。その時に実は一番悩んでいるのは韓国と日本の材料の違いです。日本のレシピを基本にしていますが、韓国ではレシピ通りの材料が手に入りません。

韓国で手に入るものでよいものを作る工夫をしなければなりませんが、100%日本と同じに作ることができず、味の違いは材料の違いに起因することが明らかであるということもがあります。

生クリーム、粉、リキュール、バター、卵、あらゆる面で異なります。例えば日本には生クリームは脂肪分が35%~50%までそれぞれありますが、韓国には1種類しかありません。
メーカーに問い合わせたところ需要がないので製造しないとのことでした。私たちはその生クリームの違いでどれだけ味が変わるかということを知っています。

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

デパ地下スイーツも急ピッチで成長中だが…
私たちにできることは、学生たちにその違いを教えて、彼らがそれをメーカーあるいは韓国の洋菓子界に要求していくことによって、必要な材料が韓国に揃っていくような環境を作っていくことだと思っています。

時間はかかりますが、本当の洋菓子の美味しさを学生たちに伝えていけば、少しずつ変わっていくでしょう。韓国の技術レベルは非常に高いのですが、材料の違い、それに対する考え方の違いには大きな開きがあります。
韓国の洋菓子のレベルをあげるには、技術だけではその差を埋めることはできません。これは日本料理でも同様で、材料の調達はナカムラアカデミー全体で苦心しているところです。一方で材料が手に入りにくいのは大変ですが、色々と研究ができるおもしろさもあります。

プロの基本は「創意工夫」。オリジナリティを発信できるパティシエを育てる

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

そもそも日本人は外国の料理を学んでも本来のスタイルを守りながらも日本流に作り変え、逆にそれを世界に発信して認められています。日本の洋菓子がまさにそれで創意工夫をするのが日本人の持つ力ではないかと思います。

レシピがあれば作れると思ったらダメだとよく言われます。自分でそのレシピを工夫してアレンジすることができなければ、パティシエとしての差は出てこないと思います。

自分のエッセンスをどう加えるか。しかし、間違ってはならないのは「私は甘いのが嫌いだから砂糖を減らします」「ジャムは入れません」というのは工夫ではないということです。レシピに則ってまず作った上で、自分でより美味しく作るために考えてみることが大切です。

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

そのためにはもっと色々なことを知らなくてはいけないですね。学生たちにはもっとお菓子を食べなさいと言っています。知ることによって知識も、技術も、味のレベルも上がっていきます。レベルが上がれば上がるほど、違いがわかり美味しいものを作ることができると伝えています。

技術だけではなくて、創意工夫していく姿勢、それがもたらす結果についてまで教えようと試みているのがナカムラアカデミーの特長です。美味しいお菓子作りだけでなく、お菓子作りに大切な考え方も伝えていきたいです。

卒業生の活躍の場を増やし、ナカムラアカデミーのスピリッツを広めたい

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

今後の課題はナカムラアカデミーの知名度を韓国で浸透させることです。現在、韓国では日本の料理学校の卒業証明書が料理人としてのひとつのステータスになっていますが、首都圏の料理学校のブランド力が強いのが現状です。

卒業生が韓国の業界で評価されるようになれば状況は変わってくるでしょう。韓国企業と提携するわけでなく、単独でソウル校を開校したので苦労はありましたが、韓国のマーケットでは、今、本物の日本料理、日本の洋菓子が求められていると強く感じますし、それらを学ぼうとする人たちの熱意に応えていきたいです。

韓国に来た以上は、楽しみたいと思います。人との出会いも文化も、色々なものに接する中で、受け入れたり、自分を表現したり、たくさんコミュニケーションをとることが大事ですね。実は韓国語はほとんどできませんが(笑)臆せず話しかけて、積極的に人と接するようにしています。

吸収できることはたくさんあります。そして吸収したことを日本に持ち帰ってどうしていくか、というのが韓国に来た意味ではないでしょうか。チャレンジをしつつ、苦労もしつつ、それもひとつの糧になりますので、屈せず前に出ていきたいと思います。

インタビューを終えて・・・

言葉だけでは伝えきれないものがある、ということで実習中は学生一人ひとりの手をとって熱心に指導する中原さん。お休みの日は評判のお店だけでなく、卒業生のお店なども訪問しているそうです。「私は指導者ですが、私の考えに従わせるのではなく、彼らが自分で考えて行動できるように導くことが大切だと考えています。」学生たちからの要求は高く、寄せられる意見は多様。

しかし、言葉の壁や考え方が違っても、強い意志と情熱をもってすれば気持ちは伝わるとおっしゃいます。見学させて頂いた授業は非常に和やかなムードでしたが、教える側も学ぶ側も緊張感があり、整然と進んでいくのが印象的でした。日本の旅行者や在住者からは「韓国料理は美味しいけれど、スイーツは…」と言われている現状ですが、中原さんの教え子たちの活躍によって、韓国スイーツが韓国訪問時には欠かせない楽しみのひとつになることを期待したいと思います。

ナカムラアカデミー

福岡にある中村調理製菓専門学校のソウル校として2009年に開校。中村調理製菓専門学校は1949に創立し、1959年には日本で初めて調理師免許が取得できる学科を開設、60年を越える歴史がある。全国の調理や製菓の学生技術コンクールで何度も優勝するなどの実績を持ち、日本の料理、製菓界に多くの人材を輩出している。ナカムラアカデミーは日本の調理、製菓技術を本格的に学べる教育機関として初級から上級、特別講座など、各種コースを開設。
住所:ソウル市江南区(カンナムグ) 論峴洞(ノニョンドン) 82-17
電話:02-540-1711


提供・韓国旅行コネスト

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