第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

韓国ではここ数年、スイーツ文化が急成長。海外旅行や留学を経験した人々による本物志向がその背景にあります。中でも日本スタイルの洋菓子が人気で、美味しいと評判の洋菓子店のパティシエは日本に留学経験があることもしばしば。そんな中、韓国現地で日本料理と日本の洋菓子の技術を学べる専門学校を開設したのが論峴洞(ノニョンドン)にあるナカムラアカデミーです。瀟洒な8階建ての建物はおしゃれエリアの江南(カンナム)でも目を引き、大きなガラス張りの1階からは熱心な実習の様子も垣間見えます。未来のパティシエを指導するのは洋菓子部門の専任講師を務める中原浩雅さん。日本の洋菓子人気とパティシエ養成のご苦労などについて、甘いお菓子の香りが漂うナカムラアカデミーでお話を伺いました。

名前 中原浩雅(なかはらひろまさ)
勤務先 ナカムラアカデミー
年齢 40歳(1971年生)
出身地 福岡県
在韓歴 7ヶ月
経歴 辻調理師専門学校卒業後、西鉄グランドホテル調理部洋食課、同製菓課勤務の後、レストランデザート部署勤務経歴多数。中村調理製菓専門学校専任講師。2011年3月よりナカムラアカデミー専任講師。

韓国で唯一、日本料理と日本の洋菓子を学べる本格的技術教育機関を設立

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

論峴洞のナカムラアカデミー
韓国から日本への旅行者は年々増加し、2006年以降はウォン高や短期滞在ビザ免除の影響を受け、年間200万人を越えています。その中には日本料理や日本の洋菓子を食べ、その魅力を感じ取った方が大勢います。

私の専門である洋菓子について言えば、日本の洋菓子は世界的に見ても極めて高い技術力があり、美味しく見た目も繊細できれいです。フランスやヨーロッパの洋菓子と比較して、甘味などもおさえたマイルドな点が特長のひとつであり、韓国の方々の味覚にもあっていると思います。
韓国での日本料理や日本の洋菓子の人気が高まるにつれて、日本で技術を学ぼうとする韓国人も増えました。韓国のパティシエの方々も急速に技術力を増していますが、多くが日本留学経験者や日本からの技術指導を受けた人が多く、現在の韓国の人気洋菓子は日本の影響を受けていると言っても過言ではありません。

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

初級クラス「クッキー」の完成品
そうした背景もあり、福岡にある中村調理製菓専門学校にも多くの韓国人留学生が学んでいます。しかし、費用や言葉の問題があり、誰もが留学できるわけではありません。

そこで日本の技術を学びたいとする人々を広く受け入れるために、2009年にソウル校であるナカムラアカデミーを開校するに至りました。

韓国において日本の料理、洋菓子を学べる本格的な技術教育機関は現在のところ、ナカムラアカデミーが唯一と言えます。

私は準備段階から関わり、開校後の講義も含めて10回以上ソウルを訪れていましたが、2011年の3月から正式に駐在となりました。洋菓子の専任講師として初級から上級までのクラスを担当しています。

スピードの韓国、アカデミー卒業と同時に開業が目標!

日本の場合は高校を卒業、もしくは短大や大学を卒業した若い人たちが多く、学生の年齢や経験値が似ていて、まさに「学校」という雰囲気です。週に3回実習があり、作業はチーム単位で行ないます。また学校を卒業したら、いわゆる下積みと言われる修行期間があり、経験を積みながらステップアップしていく、というのが一人前の料理人やパティシエになるまでの一般的な流れと言えます。

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

韓国の場合は、学校を卒業したらすぐに独立開業、店をオープンすることを目指す人が大変多いです。そのため学生は若い人たちだけでなく、30代~40代の大人だったり、すでにカフェのオーナーであったり、ホームベーキングの先生だったり、経験も年齢もバラバラです。

韓国では高校卒業後の進路が専門学校ではなく大学が多いという背景もあり、開校前から学生層の違いは予想していました。

しかし、私たちは料理教室ではなく、「プロ養成」のアカデミーを開校することが目的であったため、学生が誰であれ、基礎から厳しく教え、理論に則った上で、現場で通用する作り方や考え方を教えています。

日本に比べて授業時間は少ないですが、実習も1人で作業を完結する方式で行ない、実践的で凝縮されたカリキュラムと言えるでしょう。当初は趣味として学びに来る人もいましたが、開校から2年を経て、プロを目指し学びたいという意欲を持つ人々が集まってくるようになりました。

パティシエを目指すバイタリティにあふれた学生たちとの出会い

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

ある程度ステップアップをしてから独立開業というように段階的に進めようとする日本と違い、韓国の人たちは入学当初から「自分の店を持つ」という意欲がすごいです。

卒業と同時に開業という考え方に最初は驚きましたが、開業には大変なエネルギーが必要ですので、前向きに突き進んでいくパワーとスピードを感じます。

もちろん開業は簡単ではないので技術的に考えた場合、もっと勉強をした方がいいというアドバイスをすることはあります。

第55回~中原浩雅さん(ナカムラアカデミー)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

しかし、すでにキャリアのある大人も多く考え方はそれぞれなので、相手が求めるものに応える、ということを常に心がけています。授業は同時通訳で行ないます。

通訳やアシスタントは日本の製菓学校や調理学校を卒業しており、言葉はもちろん技術的な話やアドバイスも可能なスタッフたちです。しかし学生の多くは日本語を勉強していて、聞き取りができる人も多く、私が授業で話すことは大体理解しているようです。

またナカムラアカデミーに来て関心を持って勉強を始めた人もいます。休憩時間にみんなで集まって日本語の勉強をしていたりして、すごいなと思います。またその姿を見ていると嬉しいです。たまに博多弁講座もしているんですよ(笑)。

やはり目標がある分、授業中も聞き逃すまいとする姿勢が強く、皆さん非常に熱心です。日本語では情熱と言いますが、韓国語では熱情(ヨルチョン)と言うんですね。

熱いイメージをより強く感じる言葉ですが、熱意や必死さが本当に伝わります。バイタリティに溢れた韓国の学生たちに指導するのはとてもやりがいがあり楽しいです。