「セコムしてますか?」のCFでお馴染み、ホームセキュリティシステムで知られるセコム株式会社との合弁企業株式会社エスワンに勤務され、防犯システムなどの開発に携わっておられるのが下澤京太さんです。韓国と言えばハングルとテコンドーという印象しかないという状態で韓国赴任をスタートさせながら、韓国の人たちの情に触れるうちにすっかり韓国の虜になったという下澤さん。取材直前に日本への帰国が決まった状態でのインタビューとなりましたが「何らかの形で韓国との関わりを持ち続けたい」という下澤さんに韓国の魅力についてお話を伺いました。
名前 下澤京太(しもざわきょうた)
勤務先 株式会社エスワン
出身地 北海道
在韓歴 4年
経歴 セコム株式会社に入社後、防犯センサーなどの製品開発に携わる。2007年より韓国勤務を経て、2011年末で任期を終え、日本に帰国。2011年日韓交流おまつりのボランティアに参加。
韓国でも知名度抜群、セキュリティのことなら「セコム」
2010年G20サミットでも採用された
セコム株式会社とサムスングループとの合弁により、1981年に株式会社エスワン(当時の社名は韓国安全システム株式会社)が設立されました。韓国初のオンライン・セキュリティシステムの提供を始め、30年の間にセキュリティに加入することを「セコムする」と言われるほど韓国でも浸透しました。セコムとエスワンの両社は10年以上前から経営レベル、技術レベルで様々に交流しているため、エスワンには日本語が堪能な人、簡単な会話なら可能な人が大勢います。そういった皆さんのお蔭で、私が2007年に赴任した当初は、ハングルも読めず韓国語は少しも話せませんでしたが、こうした環境から職場で不自由を感じることはありませんでした。
韓国では戸建住宅よりもアパート(日本ではマンションに該当)が多いため、防犯設備の需要は個人住宅よりも店舗・一般事務所の割合が非常に高いのが特徴です。しかし、個人向けのサービスを6年ほど前から開始し、新たな市場を拡げようとしているところです。例えば私も開発に参画した無線保安システムではスマートフォンやパソコンで不在中の自宅の映像を確認できたり、小さな子どもやお年寄りの安全のために開発された携帯端末では位置情報がリアルタイムで追跡できるなど、使いやすく時代にあうものを提供しようと新たなニーズの掘り起こしを図っています。また、日本では通信費が嵩んで実用化が難しいサービスもITインフラが整っている韓国では可能になるケースがあり、韓国ならではの企画ができるのは興味深いです。
様々な製品が展示されているエスワンビルのロビー
子どもの安全確認用として人気の携帯端末
「もしも…」の場合に備えて、海外旅行では宿泊先の非常口を確認することを忘れずに
通路も狭い繁華街のビル
韓国では防犯意識が高く、個人の財産を守るためにセキュリティシステムを重視しているという印象があります。一方で、火事は恐ろしいものだという考えが浸透している日本に比べ、韓国では防災のニーズがあまり強くないように感じます。
セキュリティの市場でいえば、日本では防災サービスはサービスの基本でありほぼ100%のお客様が利用されていますが、韓国では全体の1/2、もしかすると1/3以下と思います。
非常口を確認
また以前、実際に防災設備の調査を実施したときも、繁華街のファッションビルや百貨店で随時閉じていなければならない防火扉が開いていたり、防災設備がきちんと動かないものをみたこともありますし、日常の生活でも、集合住宅で「防火扉を閉めてください。違反した場合は罰金10万ウォン」と書いてある張り紙がはってある防火扉が開けっ放しになっていて、自転車や個人的な荷物が非常階段に堂々と放置されていたり、火事が起きたら怖いなと思う状況をしばしば目にします。
旅行の場合は宿泊先のホテルの非常口を確認するのがよいと思います。部屋を出て、目を瞑ったまま右手(もしくは左手)を壁に触れた状態で進めば必ずたどり着く非常口を確認します。一度予行練習をやってみるとよいでしょう。加えて、その非常口が本当に1階まで降りられる階段であるかという点も確認します。同時にその非常口を使えば外部の人間が自分の部屋まで入って来ることが可能か、フロントを通らないと部屋までは侵入できないのか、という防犯の側面も確認してみるとよいでしょう。
特に外国では館内放送を聞き取ることが難しく、自己判断しなければならない状況が予想できます。非常口の確認や予行練習は、その国や施設に対して悪いことでも失礼なことでも何でもないので、遠慮せず実践するのがよいと思います。
韓国で学んだ「人との接し方、関係の築き方」さまざまな側面
仕事の進め方は「不易流行」というのを非常に感じました。これは、いつまでも変化しない本質的なものを忘れずにいながら、時代や流行といった新しいものを取り入れていくという意味ですが、私がこの国で仕事をして感じたことは、日本からやってきた製品やサービスですが、その国特有のものの見方、考え方、商品やサービスの提供の仕方を変えてこそうまくいく部分、変えてはいけない部分の見極めが大事なのではないかと表います。「なぜ私の言っていることをわかってもらえないのか」と腹立たしくなることもありますが、何か提案しようという時はそれを理解した上で「その境界線を見極めてみよう」という気持ちをもって、積極的に話をする機会を作ったり、もうちょっと踏み込んでみようと勇気を出してコミュニケーションを取るのがよいのではないでしょうか?
私の意見が通る場合もあれば、通らない場合もありますが、意見が通らなければ悪いことかといえば、そうではありません。変えなくてよかった、ということもたくさんあります。また日本、韓国というのは関係なく、話をする対象との信頼関係の築き方によって「下澤が変なこと言ってるけど、あいつの言うことなら一理あるかも。もう少し話を聞いてみるか」と思ってもらえるのではないでしょうか。私は今まですごく技術的な小さな視点でのみ仕事をしていたと思うんですよ。その意味で、韓国に来て今までの自分の仕事の方法やコミュニケーションのとり方を見直すよい機会になりました。
韓国の人たちは厳しい競争の中で仕事をしていて、自分の役割を果たしているからそれでいいというのではなく、アピールをしっかりします。新入社員のときから私の仕事はこんな内容だ、仕事をこうやったというのをアピールするし、プレゼンテーションも上手だと感心します。開発も日本的な考え方ではちょっと思いつかない発想で製品化するので勇気があるなと感じる側面があり、何事にも積極的でチャレンジャーな人たちと一緒に仕事ができて楽しかったです。