「コンサルタント」という仕事は多岐に渡り、私たちの日常生活にあまり関連がないため、イメージしづらい職種のひとつではないでしょうか?「そうなんですよ、人に説明しづらいです。会社の悪いところを治すお手伝いをする仕事なので、言うなれば会社のお医者さんです。」とおっしゃるのは経営コンサルティングのエキスパート香月義嗣さんです。香月さんのコンサルティングによって3年で売上が2倍にもなった企業もあり、韓国企業の営業現場を実践的なコンサルティング手法により改革してきました。言葉もわからないまま韓国にやってきて、ビジネス習慣の異なる数多くの韓国企業とともに仕事を進めてこられたご苦労やエピソードなどを汝矣島(ヨイド)の事務所でお話を伺いました。
名前 香月義嗣(かつき よしつぐ)
勤務先 株式会社インタープライズ・コンサルティング
韓国事業部 チーフコンサルタント
出身地 31歳(1980年生)
在韓歴 6年
経歴 東京大学工学部 卒業/東京大学大学院 新領域創成科学研究科修士課程 卒業。 2005年より新卒で入社し、東京オフィスでコンサルタントとして勤務後、2006年の韓国事業部の発足と同時に来韓。電子、食品、教育、製薬、アパレルなど韓国の主要企業の営業組織のコンサルティング、及び現地コンサルタントの育成を担当。韓国企業へのコンサルティング経験を生かし、2011年からは在韓日系企業へのコンサルティングサービスを開始。「SALES-DIPS」(2011年 韓国能率協会コンサルティングより出版、共著)など、韓国での著書も多数。国際公認経営コンサルティング協議会認定マネジメント・コンサルタント。
「君の話には感動がない」、韓国人経営者の一言
韓国語で発行された共著
私が日本で勤務していた頃にも韓国企業からコンサルティングの依頼があり、それに応えるうちに韓国市場に可能性があることがわかり、韓国事業部が作られました。韓国について右も左も分からないまま、事業部の立ち上げに参画し、以来6年になります。
一般的な韓国のコンサルティング会社では戦略的なコンサルティングが中心で、難しい分析結果とこれをやるべきという結論を分厚い報告書にして提出して終わり、というパターンが多いのですが、私たちの手法は実行支援に重点を置いて、業績改善という成果を出すことをゴールとしています。私は営業組織のコンサルティングが専門で、営業マンの業務を改善して売上を伸ばす支援を主に行なっています。
また、韓国企業を対象にしたセミナーでの講演も私の仕事です。私たちが日本で培ったノウハウを情報発信して、興味を持って頂くことが目的です。ある日、日本でやっていたのと同じように、いつも通りプレゼンテーションを行なった後、ある方から「君の話には感動がないよね」と言われて非常にショックを受けました。日本では一度も言われたことがなかったからです。
それをきっかけに、韓国でプレゼンを聞いてもらうには、おもしろい話、感動的な話を盛り込む必要があるのではないかと気づきました。
以来、講演の時にはムービーを流したり、感動的な話をしたり、ちょっとした演出を心がけるようにしたところ、韓国人の方々にも興味をもって話を聞いて頂けるようになりました。
韓国人の心をつかむには右脳に働きかけるべし
韓国ドラマを見ていると、ストーリー性よりも、ある一場面にすごく感動させられるような瞬間的な盛り上がりや演出が秀逸だと感じます。韓国ではそうした感動的な演出やサプライズを好む傾向が強いのだと思います。逆に、日本のドラマでは主にストーリーやシナリオが重視されますよね。こうした点にも日韓の文化的な違いを感じます。
韓国のドラマ(演出)・日本の漫画(ストーリー)が世界的に評価されている背景には、こうした文化的な強みの違いがあるのではないかと思います。今後、経済成長を続けてビジネス的なシステムが整っていったとしても、やはり韓国では感情的な要素は非常に重要で、文化として情に訴える表現は欠かせないのではないかと感じます。
ですから、日系企業向けセミナーで講演をする際には、韓国では頭で納得してもらうよりも心を動かすことが大事という意味で、「まずは右脳に働きかけることが大切」だと強調しています。日本人が韓国人と一緒に仕事をする上で、理解できずに悩む部分がここではないかと思います。
反発、混乱、まとめが一苦労のプロジェクトを成功へ導くために
コンサルティングのスタート時点では、現場に行って営業部長から一般社員まで営業組織のすべての人たちにアンケートやインタビューを行なって問題点を洗い出すことから始めます。初めは、外部から変な人が来たと嫌がる方もいれば、変わることに対して反発する方もいたりと、一筋縄ではいきません。
調査を通じて、組織の問題点と原因を探り出し、解決策を提示したら、10ヶ月かけて実行に移していきます。一人ひとりが仕事のやり方を改善し、組織で改善に取り組むことで業績を伸ばすことが目標ですが、韓国では個人プレーに陥りやすいのが実状です。
日本では成功事例は比較的共有されますが、韓国では個人のノウハウだから教えたくないという力学が働く上、自分しか知らないという領域を作ろうとします。標準化されて、誰にでもできるようになると自分が辞めさせられるかもしれないと考えるからです。
最初の2ヶ月くらいは本当に大変ですが、個人で取り組むよりもチームで取り組むことのメリットを感じてもらい、明確な目標設定をした上で、組織内での競争心をよい方向に持っていくことを心がけています。
チームメンバーとプロジェクト成功の打ち上げ
日本も以前はそうでしたが、韓国でも営業の現場では、お酒を飲んでカラオケに行って仲良くなったら契約、というような人情でつながっていることが多いです。しかし、経済が成熟していく中で、今後は仲良くなるだけでなく、顧客に対してどのような価値を提供できるのかという点が重視されるようになってくるでしょう。
また、韓国企業の営業マンは、お客さんの気持ちを無視してセールスしてしまっている方がまだまだ多くいます。一方で、日本ではお客さんの心理を把握してセールスを進めていくという考え方が強く浸透していると思います。
こうした顧客心理やホスピタリティの質の高さは、日本の大きな強みだと思います。韓国の大手企業にも、この点に興味を持って頂き、コンサルティング支援をさせて頂きました。