1980年代の韓国留学以来、すでに20年あまりを韓国で過ごしている戸田郁子さん。軽妙かつユーモラスに韓国社会を描き、日々の暮らしに密着した韓国語にまつわるエッセイでご存知の方も多いのではないでしょうか。

一方で、「日帝時代」といわれる日本の植民地支配期に関わる歴史を学び、韓国はもちろん中国でものべ10年あまり生活。朝鮮族(※)をはじめ、歴史を背負いながら生きる人々への丁寧な聞き書きを続けています。日・韓・中3カ国を行き来してきたご自身の経験、そこから紡がれる過去・そして今後へのまなざしについて伺いました。

(※)朝鮮族:中国の少数民族の一つとされ、朝鮮半島にルーツをもつ人々。19世紀後半頃より本格的な移住が始まり、1910年の日韓併合後は祖国で生活基盤を失った人々や「満洲」開拓民などによる移住も増加した。中華人民共和国の成立(1949年)以降は中国籍を得ている。

第62回~戸田郁子さん(作家・出版社経営)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

名前 戸田郁子(とだ いくこ)
職業 作家・翻訳家・図書出版「土香(トヒャン)」経営
年齢 52歳(1959年生まれ)
出身地 愛知県
在韓歴 約20年
経歴 会社勤めを経て、1983年より韓国の延世大学韓国語学堂に留学。1985年より高麗大学校史学科にて韓国近代史を学ぶ。その後、中国黒龍江省ハルビンに語学留学し、延辺朝鮮族自治州を中心に、中国東北地方の朝鮮族の移住と定着の歴史を取材している。韓国で「図書出版土香(トヒャン)」を立ち上げ、日韓中をつなぐ文化を中心とした本作りに携わっている。主な著書に『中国朝鮮族を生きる 旧満洲の記憶』(岩波書店)、『悩ましくて愛しいハングル』『ハングルの愉快な迷宮』(講談社+α文庫)、『ふだん着のソウル案内』(晶文社)、翻訳書に『李さんちの物語』(黄美那・講談社)、『弓』(李賢世・晶文社)など。

初めて触れた「日帝」。歴史の重みに衝撃

初めて韓国を訪れたのは1979年。大学主催の交流行事で、韓国の大学を訪問しホームステイするプログラムに参加しました。しかし実は、当初は韓国にあまり興味がなく、古代史やシルクロードへの憧れから関心は中国にありました。韓国と中国は土地がつながっていますし、文化的にも似ている部分があるだろうと行ってみることにしたのです。

第62回~戸田郁子さん(作家・出版社経営)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

韓国に行き衝撃を受けたのが、歴史への意識の違いです。同世代の若者に「過去に日本人がしてきたことをどう思うか」と問われましたが、私は「日帝時代」という言葉に触れたのも初めてでした。

そんな中、日本でも詩人や作家として知られる金素雲(キム・ソウン)先生が講演でおっしゃった「人とは生まれた国の重荷を背負って生きている」という言葉に、はっと心を動かされました。
今まで知らずに過ごしてきた「日帝時代」の重さとは何か。それを勉強し、すぐ隣の「韓国」という国を知りたいと惹かれていきました。周囲の反対を受けながらも帰国後お金を貯め、1983年に留学のため再び渡韓をしました。

「同じ服を着る」がステータス?80年代の大学の雰囲気

まずは個人留学生が韓国語を学べる唯一の大学だった延世(ヨンセ)大に通いました。9カ月間勉強しましたが、街に出て現地の人々と会話を重ねるうちに、授業が物足りなくなるほど上達してしまいました。

そこで「日帝時代」の歴史を本格的に学ぼうと、韓国近現代史で有名な高麗(コリョ)大の教授・姜萬吉(カン・マンギル)先生を訪ねたところ、なんとその場で学長と面接し入学許可書が出たのです。韓国の大学で学ぼうとする日本人がほとんどいなかった当時、「そんなに勉強したいなら」と、熱意を認めてくださったようです。