最強コンビとしか思えない「溺れるナイフ」
「溺れるナイフ」ギャガ
次に菅田さんと小松さんが共演した「溺れるナイフ」(16年/山戸結希)はラブストーリーでした。キャッチコピーは「あの頃、君が世界の全てで、私達は永遠だと信じていた」という、ファッションビルのエモいキャッチコピーと写真みたいな雰囲気の少年少女の物語。 ここでのふたりの出逢いは鮮烈です。ティーンモデルをしていた望月夏芽(小松さん)が親の生まれ故郷に戻って退屈していたところ立入禁止の海で長谷川航一朗(菅田さん)と出会います。海を背景にふたりが向き合って見つめ合う画が絵画のようです。超美少女と金髪美少年。おそらくふたりして己の全能感を超えそうな相手に出会ってしまったその瞬間の衝撃。 その後(あと)、ふたりは海にザブーンと飛び込むことになります。服着たまま海に入る場面を演じたら恋するに決まってる。勝手にキャッチコピーを作ってしまいたくなる雰囲気がありました。
「溺れるナイフ」販売ページより
ですがこの映画もただただ無我夢中の思春期の恋だけではなく、なかなかヘヴィなことが起こります。火祭りの晩、夏芽の身に降りかかった悲劇は夏芽と航一朗の両方の心を傷つけます。 辛い出来事があったけれどふたりの恋は生涯一度の尊いもので、「海―」「空―」「雲―」とはしゃぎながらふたりで自転車やバイクの二人乗りをはじめとしてこれでもかこれでもかとエモいシーンの連続です。これを見ちゃうと、菅田将暉さんと小松菜奈さんは最強コンビとしか思えません。
確実に歩んでいった末の結婚だと感じさせる「糸」
「糸」ポニーキャニオン
「溺れるナイフ」の印象が強すぎてもっと何作も共演しているように思えますがその後、4年ほど間が空いて「糸」(20年/瀬々敬久監督)です。 13歳の時に出会ってほのかな恋をした高橋漣(菅田さん)と園田葵(小松さん)が出会いと別れを繰り返す18年間。想い合いながら別れたふたりが再会した時はそれぞれ別の道を歩んでいます。それでもふたりは互いのことが気にかかって……。 「ディストラクション・ベイビーズ」と「溺れるナイフ」では青くて鋭く尖った十代を演じてきた菅田さんと小松さんがすっかり落ち着いた社会人を演じています。前2作ではちょっと髪が長めだった菅田さんは短髪でさっぱり。北海道のチーズ工房で働き、結婚し、親になる実直な青年を演じています。小松さんは海外でビジネスを行うほどのガッツのある人物を演じます。「溺れる~」では助けてくれなかった彼をものすごく責めてしまう人物を演じていましたが「糸」では自分が他者を助けようと考える人物です。
若さそのものの活(い)き造りのような映画から地に足のついた演技を見せる「糸」へ――。この作品を経て実生活で結婚に踏み切った流れにふたりの堅実さを感じます。つまり、若さゆえの勢いの恋ではなく、確実に歩んでいった末の結婚だと感じさせるからです。映画のラストはその後の菅田さんと小松さんを暗示しているように今だと見えてしまいます。