パワーとパッションの韓国サッカーに技巧をプラス
韓国は長身でパワーのある選手が多い(写真はチャ・ドゥリ選手)
私はずっと日本のチームで韓国と戦ってきましたが、韓国人選手は体格が大きくスタミナもあり、フィジカル的に非常に強いイメージがありました。
それは日本の部活動と異なり、韓国では中学・高校で少数精鋭の選手たちが徹底的にトレーニングを積んできていることと関係しています。プロになる頃には基礎体力が既に出来上がっているため、日本と比べてフィジカルトレーニングの必要性が重視されてこなかったのかもしれません。
しかし、韓国人選手はパワーもスピードもあるのに、実際の試合では十分に生かしきれない「宝の持ち腐れ」的なところがあるのも事実です。日本と韓国で指導方法は大きく変化させていませんが、トレーニングは韓国人選手ならではの特徴に合わせて考案しています。
例えば、日本では基礎体力を強化するトレーニングが多いのに比べ、韓国では技巧を向上させるトレーニングを中心に行なっています。目前のことには集中できるが先のことを考えるのは苦手、という選手が多いので、緩急をつけたステップの踏み方やスピードの強弱の付け方など、スキルアップを図る練習が主になります。
韓国人選手の持ち味と私がこれまで積み重ねてきた指導法をうまくミックスすれば、選手たちの潜在能力をさらに発揮させることができるのではないか。そんなイメージを描きながら指導に当たっています。
「オープンマインド」で縮まった選手との距離
FCソウルでの1日はほぼ毎日同じスケジュールで、朝は選手たちが集まる30分ほど前に来て、自分のトレーニングをすることから始まります。チームの中で最年長ということもあり、体力を落とさないためのランニングや筋力トレーニングは欠かせません。
午前中は次の対戦相手のビデオを見たり、自分たちの試合を振り返ってディスカッション。その後トレーニング内容について監督たちと話し合い、午後にトレーニングを行なって19時頃終了します。
トレーニング前のミーティング風景
就任後初のチームミーティングでは、「この日本人は誰なんだろう」というそわそわした雰囲気、「自分たちにどんなトレーニングをさせるのだろう」という興味や不安を選手たちの表情から感じました。
そこでまず、「私は良い成績を上げるためにやってきた。お互い同じ目線でチームを作り上げていく一員だ」ということを、普段から意識して伝えるようにしました。
また、韓国は目上の人を敬う儒教の国で年功序列が重んじられる傾向にありますが、「外国人だから名前に敬称を付けなくても良いし、気楽に接してほしい」とも話しました。何事も包み隠さず、心を開いて接するうちに、選手たちとの距離感は徐々に縮まっていきました。
言葉の面でも、最初は「アンニョンハセヨ」「カムサハムニダ」以外は分からなかったので苦労しました。幸いサッカー用語はキックやパス、シュートなど英語が多いので、単語をつなぎ合わせて何とか伝えていましたね。
指導の際よく使う言葉を通訳に何十個も書いてもらってからは、それを会話のバイブルとして使っていましたが、1年ほど経つと「今日はコンディションどうだ?」「昨日は何して過ごした?」など、自然に話すことができるようになりました。
チームに溶け込み、人と人とのつながりが増えるなかで、少しずつ身についていったのだと思います。
ランニングにサイクリング…オフもアクティブ
帰宅後のコーヒータイムがリラックスの時間
休日は、家でじっとしていられない性格なので、自宅近くの公園を走ったり、登山に行ったりして過ごしています。
サイクリングをすることも多く、九里の自宅からソウル西部のワールドカップ競技場まで片道3時間かけて行ったこともあります。そんな風にアクティブに過ごした後、サウナに行って
1日を終えるというのが休日のパターンです。
江南(カンナム)エリアの日本料理店にも韓国在住の日本人コーチとよく繰り出します。また普段、家に帰ると最初に豆を挽いてコーヒーを淹れるほどのコーヒー党ですが、自宅で飲むだけでなくカフェに行くことも多いです。
約20年前、初めて韓国に来たときはこんなにコーヒーが浸透するとは思いもしませんでしたが、今ではチェーン系のカフェもどんどん増えてきて嬉しい限りです。
韓国でストレスなく暮らすコツは「韓国人になりきる!」
韓国で暮らしていると、突然の決定や変更も多くてイライラすることがありますが、それも国民性のひとつだと思って受け入れるようにしています。実は韓国に来た初日、突然車の鍵を渡され、「これから宿舎に行くから付いてきてください」と言われました。
韓国での運転は初めて、その上ハンドルも反対で戸惑いましたが、そのとき自分の考え方を切り替えなければと思いましたね。これが韓国のやり方なのだから慣れるしかないのだ、と。
日本のやり方をアピールするのも一つの方法かもしれませんが、私の場合は「韓国では、こうなんだな」と自分の中で上手く消化することで、ストレスが大分軽減されるようになりました。
アジアを制し、世界に通じるクラブに
ゴール前で攻め込むユン・イルロク選手
(2013ACL準決勝エステグラル戦)
日本のチームはパスを丁寧につなぎ、足元を駆使して相手にボールを奪われないようなサッカーが特徴です。プレー自体は確かにエレガントですが、何としても点を取らねばならない場面や守りが重要な場面で勝負に徹していないと感じるときがある点は否めません。
それに対し韓国のチームは全く逆で、パスをつないだプレーは少ないものの、ゴール前での攻防は強く、非常に見ごたえがあります。しかしながら、KリーグはFCソウルや水原(スウォン)三星などビッグクラブの試合を除き観客数が少ないのが現状です。
私はサポーターが試合内容に魅力を感じていないのがその一因だと感じていて、もう少し丁寧にパスをつないだり、選手の持ち味を発揮したサッカーができれば、観客動員数の増加にもつながるのではないかと見ています。
FCソウルはKリーグの中でも異質なチームで、しっかりパスをつないでゲームを作り上げていきます。そういう意味ではJリーグのチームと非常に似ていて、さらにパワーやスピードもあるという魅力的なサッカーをするチームです。
チームクォリティーが高いため、指導内容がすぐプレーに反映されやすく、フィジカルコーチとしてのやりがいも大きいです。また、昨年Kリーグで優勝を果たしたり今年はACLで決勝戦まで進んだりと、トレーニングの成果がゲームの勝敗につながったときは非常に満足感があります。
一方で、日本のチームとの対戦で負けると、日本でまた指導をしたいなという気持ちにもなり、その葛藤が大きいですね。韓国人の特徴や日本人選手にも適用できるトレーニング法など、韓国で刺激を受けて自ら学んだことを日本に持ち帰り、日本サッカーのために貢献したいという思いもあります。
FCソウルでの目標は、アジアチャンピオンです。とても大きなチャレンジですが、世界に通じるクラブになってほしいという思いがあります。そのために、監督のイメージするサッカーができるよう、また選手たちが自信をもって戦えるよう、最善を尽くしてサポートしていきたいです。
インタビューを終えて・・・
自らを「裏も表もない性格。日本でも韓国でも、この芸風は変えられません(笑)」と、おどけて語る菅野さん。初対面なのに親しみやすく、身振り手振りを加えて真摯に話される様子が印象的でした。日本での豊富なご経験とオープンな人となりが、韓国においても選手たちとの信頼関係をより短期間で、より深く築き上げてきた秘訣なのではないかと思いました。
2013年11月9日、中国で行なわれたACL決勝第2戦では、接戦の末、惜しくも準優勝に輝いたFCソウル。一方、韓国国内ではKリーグにおける競技が12月1日までといよいよ終盤を迎えています。上位リーグで奮闘中のFCソウルの試合は、本拠地であるワールドカップ競技場をはじめ各地で開催中。皆さんもぜひ足を運んで、パワフルな韓国サッカーを間近で観覧してみてください。
FCソウル
1983年創設。Kリーグには1984年より参加し、2010年には同リーグにおける1試合の観客動員数の新記録を達成(60,747名)。2013年現在まで5度のリーグ優勝を果たしている。
住所:ソウル市 麻浦区(マポグ) 城山洞(ソンサンドン) 515 ワールドカップ競技場内
電話:02-306‐5050
ホームページ:www.fcseoul.com
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