むき出しの肉体ひとつで、感情の機微を映し出していく

演技のやり方には歌舞伎に代表されるような“型”が先立つものと、心情を重視するものと大きくふたたつに分かれる。 型とは振り付けのようなもの。衣裳やヘアメイクなどで誰もが等しくわかりやすく見るための共通言語である。それが過ぎると画一的になってしまうこともある。 西島の場合、型で勝負しない。まるでダンサーの即興のようにむき出しの肉体ひとつで、そこに感情の機微を映し出していくように見える。刑事ものの場合、任務に忠実に完璧に遂行する人物の心身ともに屈強な様を、恋愛ものの場合、愛する人をとことん想う愛情の深さを。

イケメンと呼ばれる宿命をもたされてしまった俳優のロールモデル

西島秀俊が映画でもテレビでも出ずっぱりの昨今、西島秀俊はイケメンと呼ばれる宿命をもたざるを得なかった俳優の進むべき道筋のロールモデルだと感じている。 デビュー時にイケメンを打ち出すとそれなりに注目される一方で一定期間に消費され終わってしまうという諸刃(もろは)の剣にもなる。90年代、当時流行った恋愛ドラマに出演して注目された西島は早いうちにイケメン売り(当時はまだ「イケメン」という言葉は主流ではなかったがビジュアルで選別されることは当然のようにあった)から距離をとり、目標を映画に見定めてひたむきに俳優として活動してきた。 以前、「笑っていいとも」に出た時、司会のタモリに西島が語っていた、映画館をはしごして映画を見るとき、車のなかでおにぎりを食べているというような話を筆者はいつまでも忘れられない。 一時はテレビではあまり見なくなったこともあったが、最近は映画もテレビもバランスよく出ている。「ドライブ・マイ・カー」のような芸術的な映画に出る一方で、「何食べ」や朝ドラなど大衆に受けるエンタメ作にも出て、家電や洗剤等のCMでは好感度を発揮しまくりだ。俳優としてこれほど理想的なことはないのではないだろうか。 <文/木俣冬> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】

木俣 冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami


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