西島秀俊の優れたところとは?
確かに最近の西島は「MOZU」(TBSテレビ、WOWOW)「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(関西テレビ・フジテレビ)「奥様は、取り扱い注意」(日本テレビ)などで公安刑事を演じている。だからといって公安刑事専門俳優ではない。 西島は、公安ではない刑事を演じた「サイレント・トーキョー」のパンフレットのインタビューで「刑事といってもひとくくりにはできず、所轄だったり捜査一課だったり、所属する場で考え方も行動も変わってきます」と言っている。似たように見えて違うアプローチをしているのだということを言いたいのだろう。 西島秀俊を「公安」と思ってしまうことは、若手で顔の整っている俳優を「イケメン」とカテゴライズすることと似ているように筆者は感じる。ひとはつい「イケメン」「公安」などと物事を枠にはめてしまいがちだが、「イケメン」にも「公安」にもひとりひとり個性があり、俳優とはその個性を表現する仕事なのである。 だが意外とその固有の表現は難しく、「イケメン」や「公安」という表層だけを適切に演じる俳優もいる。それだけでも凡人にはできないことなのでそれはそれで才能である。 西島秀俊の優れたところは、見た目はシンプルな最大公約数を保ちながら、様々に移り変わる役の心情を表現できるところなのである。
西島秀俊には、迫真のホンモノ感がある
「何食べ」のふだんから節度ある言動を意識しているようなシロさんのスマホ画面で軽やかな笑顔、「ドライブ・マイ・カー」ではなかなか他者に心を開かない主人公が時々、かすかに口元に心情を零(こぼ)すところ、「劇場版 奥様は取り扱い注意」では任務で監視しているはずの妻(綾瀬はるか)にスイカを「食べる?」と差し出す表情は任務ゆえの演技なのかそれとも本気の思いやりなのか。 こうであるはずの人が思いがけない反応をしてしまう瞬間。それが実に迫真なのが西島秀俊なのである。 本人はそれを例えばフィジカルトレーニングのメニューのように計算してやっているわけではないだろう。その場の空気を素直に感じて映し出しているからこそのホンモノ感なのだろう。フィクションを作る時、重要なのはそのホンモノ感。西島秀俊にはそれがある。 ミステリードラマ「真犯人フラグ」(日本テレビ)では西島のその嘘のなさを逆手にとって、彼の演じる主人公の謎が深まっている。
(画像:日本テレビ『真犯人フラグ』公式サイトより)