ここ数年、至る所にコーヒーショップが出店し空前のカフェブームに沸く韓国。コーヒー消費量も急増、世界6位という調査結果(2014年)も出ています。そんなコーヒー好きの韓国人がツアーを組んでまで訪れるという日本のカフェが、東京・世田谷に本店を置く「堀口珈琲」。創業者でスペシャルティコーヒーの第一人者、堀口俊英さんは「おいしいコーヒー」を追求する術を伝えるべく、韓国でも教育・啓蒙活動を展開しています。毎年恒例となったセミナー開催のため訪韓した堀口さんに、韓国での活動の近況や急速に変化する韓国のコーヒー事情について伺いました。

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

名前 堀口俊英
勤務先 株式会社堀口珈琲
年齢 満66歳(1948年生)
出身地 東京都
経歴 1990年「(有)珈琲工房HORIGUCHI」開業。2002年に「堀口珈琲研究所」を設立、コーヒーの栽培・精製と香味の関係を研究する一方、生産者とのパートナーシップ提携、セミナーの開催、開業支援等に幅広く取り組む。日本スペシャルティコーヒー協会理事、日本コーヒー文化学会理事。
主な著書に『珈琲の教科書』(新星出版社)、『珈琲のすべてが分かる事典』(ナツメ社)、『スペシャルティコーヒーの本』(旭屋出版)など。

韓国での活動、きっかけは一人のファンからの熱烈ラブコール

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

最高の素材から生まれる1杯

「堀口珈琲」が専門とするスペシャルティコーヒーとは、栽培から精製、輸送、ロースト(焙煎)、抽出まで徹底的に管理されたコーヒーのことです。以前は国名でコーヒーが選別されていたので、ブラジル産といってもブラジル各地の豆が混ぜられ、どこで収穫された豆なのか詳細を知ることができませんでした。

ところが、2000年頃からアメリカや日本、北欧などでトレーサビリティ(製品履歴)の明確なコーヒーが求められるようになり、さらにサスティナビリティ(持続性)といって環境に配慮した農法や労働者の人権保護の観点からコーヒー栽培を指導する団体も生まれてきました。

こうしたトレーサビリティとサスティナビリティを両軸とする世界的なムーブメントの中で誕生したのが、スペシャルティコーヒーです。現在、世界の市場で流通している量は全体の5~6%に過ぎませんが、原材料である生豆の品質が高く、それゆえ味にも個性がある点が大きな特長です。

韓国でコーヒーブームが起こったのは、2010年頃と比較的最近です。私が韓国を訪れるようになったのもちょうどその頃で、現在通訳を務める韓国人スタッフとの出会いがきっかけでした。私のファンでもあるという彼女から、「ぜひ韓国でもセミナーを開催してほしい」という熱烈なリクエストを受けたのです。

当時コーヒーブームが広がりつつあった韓国では、スペシャルティコーヒーについても学びたい人が増える一方で、品質や味についてきちんと教えられる人がいませんでした。そんな事情にも触れる中で、韓国でもコーヒーのおいしさ、楽しみ方を伝える活動を始めるようになりました。

毎回満員御礼!受講生の真剣な眼差しに全力で応える

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

会場に用意された各種器具
韓国でのセミナーは今年で4年目を迎えます。毎年実施しており、2014年は全3回のプログラムを3カ月にわたって行なっています。会場は主にソウルですが、過去には忠清道(チュンチョンド)の大田(テジョン)や釜山(プサン)、済州島(チェジュド)のコーヒー祭りなどにも招待され、講義を行ないました。

セミナーはペーパードリップの基礎を学ぶ「抽出」、カッピングといって味の客観的な評価方法を知る「ビギナー」、さらに上級者向けの「マスター」と3コースを開講しています

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

セミナーの様子。参加者も皆真剣そのもの
いずれのコースも人気が高く、今回も募集から1週間で定員に達しました。参加者はカフェ経営者から焙煎技師、大手食品会社の研究員まで様々です。これだけ良質のサンプルを揃え、本格的に学べるセミナーは韓国では他にないため、学習意欲の高い人が集まってきます。

内容は日本であれ韓国であれ基本的に同じです。レベルは落としません。なるべく分かりやすい言葉で説明はしますが、世界トップ水準の内容で行なうことに変わりはありません。

運営は全て現地スタッフに任せていますが、毎回スムーズな進行で不便を感じたことはないです。日本では準備から講義まで私一人で行なうので大変ですが、韓国のセミナーではスタッフが手伝ってくれるので非常に楽をさせてもらっています。聞くところによると、セミナーの最中に私はよく動き回るのですが、スタッフたちはその導線なども予測した上で予行演習まで行ない本番に臨んでいるそうです。

著書がベストセラーに。高まる関心を受け続刊も

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

『珈琲の教科書』韓国語版
韓国におけるセミナー以外の活動としては、2012年に『珈琲の教科書』の韓国語版を上梓しました。日本で出版した著書は他にもありますが、コーヒーは常に変化しているという特徴から、出版当時に最新かつ専門的な内容を網羅していた一冊を選びました。

これまで2万部以上が刊行されましたが、実用書部門ではベストセラーに匹敵する異例の部数とのことで、コーヒーに対する韓国の人々の関心の高さを感じました。

出版記念のサイン会では女性が目立ちましたが、バリスタを目指していたりカフェを経営する男性にも愛読者が多いそうです。

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

出版社のスタッフと

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

長蛇の列ができたサイン会

第81回~堀口俊英さん(堀口珈琲)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

近々出版予定の新刊は、「テイスティング」がテーマです。コーヒーのテイスティングはワインのように確立されておらず、味に関しても未知の部分がたくさんあります。

例えば南北に長いコロンビアという国は、テロワール(地理や気候による特徴)も多様で、そこで生産されたコーヒーにも無限の味がありますが、まだその全てを解明できていません。

しかし、スペシャルティコーヒーに対する関心が高まるにつれ、「○○県の○○農家の味はどうなのだろう」というレベルまで追求される時代になり、味の特性を判断するテイスティングにも注目が集まっています。

「コーヒーのおいしさ」というのは、突き詰めると難しいです。科学的に検証できるものでもなく、「好み」と言ってしまえばそれまでです。

しかし、私は「好み」の前段階に「おいしさ」があると考えます。さらにおいしいものがあると知ってもらうことが私の仕事でもありますが、そのためにはおいしさを判断できるだけの知識が必要です。
味には酸や苦味など色々な要素がありますが、それぞれどんな意味で使われているのか。また酸といっても柑橘系の果物やブルーベリー、ピーチ、あんず、パッションフルーツと生産地により多様な味のニュアンスをどうやって感じ取るのか。そういったことを学んでいくとコーヒーの世界により深く接することができ、楽しみもぐんと広がります。