自己責任論が通用しないこれだけの理由

泣ける…「時給はいつも最低賃金」な50代女性ライターが見た現実/和田靜香×松尾潔
(画像=『女子SPA!』より引用)

松尾:喫緊の課題は、路上生活者や生活困窮者への支援でしょう。昨年11月、渋谷区のバス停でホームレスの女性が「目障りだから」という理由で殺された事件は、とてもショックでした。 和田:住宅問題には、私もこの10年ほとほと困っています。中高年、単身、フリーランス、お金なしの四重苦で、賃貸物件の圧倒的弱者。そもそも、50年前は収入に占める住居費は5%ほどだったのに、今では25~30%にもなっている。到底、暮らしていけません。 松尾:住宅は国が担う政策なのに、日本ではそうなっていない。 和田:住宅政策や失業対策など、現役世代向けの政府支出は、英国やスウェーデンの半分以下で、社会保障もまったく足りていない。 昔は誰もが正社員になれて、終身雇用が約束され、給料は右肩上がりだから自己責任でも何とかなっていた。でも、今は経済成長は見込めず、非正規雇用は全体の約4割に達し、賃金も上がらない。自己責任ではどうにもなりません。 諸外国では、住宅や教育、介護などの行政サービスを無償か、安価に国民に提供しているけれど、日本は公助に後ろ向きで、減税でお金を還付するから国民は自前で何とかしろというやり方。税金が高くて払うのがイヤな私は減税を喜んでいたけれど、実は自助に追い込まれていたんです。 30年続くデフレにしても、物価が安くて助かるって思っていましたが、物価が上がらなければ賃金も上がらない。

泣ける…「時給はいつも最低賃金」な50代女性ライターが見た現実/和田靜香×松尾潔
(画像=『女子SPA!』より引用)

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、30年で米国の平均賃金は247万円増加、韓国は1.9倍に急増したのに対して、日本はわずか18万円しか増えていない

勝ち組の人は、下の人のことなんて目にも入らない

松尾:僕は、弱い人が弱いことを隠さずとも、風通しよく生きていける社会の実現を望んでいます。ただ、民主主義は弱き者、持たざる者にも光を与える考え方であると同時に、強き者、持てる者にもメリットがなければ十全ではないと思う。 でも、例えば、小学校でみんながお弁当を広げているとき、食事にありつけない子がいるのに、「やった! 今日のおかずはハンバーグだ!」と喜ぶ子がいたら嫌ですよね。幸福を最大化する唯一の方法は、他者とシェアすることなのでは。 和田:でも、勝ち組の人は、下の人のことなんて目にも入らない……。困窮者支援の活動をしていても、立ち止まる人なんていません。

泣ける…「時給はいつも最低賃金」な50代女性ライターが見た現実/和田靜香×松尾潔
(画像=『女子SPA!』より引用)

東京・池袋で生活困窮者支援団体が行った炊き出し。リーマンショック以降の日本では、珍しくもない光景となっている……写真/朝日新聞社

松尾:「伝え聞く悪事」という言葉をつくり、考えてみました。中国の習近平体制は人権を蔑ろにしていると聞いても、自分は被害者や当事者ではないからと、多くの日本人は日々の営みのほうを気にする。遠い国の独裁や地球の裏側の飢饉など、「伝え聞く悪事」に共感できるか……SNSが発達した今、対岸の火事と矮小化しない共感力を持つ人も増える時代でもあればいいのですが。