「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけるのがベスト
佐藤「乗車の際にアナウンスをやめてほしいと言うと『なら乗車させられない』と言われ、車内で被害に遭っても、誰も助けてくれない。外出するのが怖いという声が上がっています」
DPI日本会議は、こうした事例を国交省に提出し、改善を求めています。各社問題意識を持ち、対応を検討してくれているそうです。それでも、問題の根本は乗車アナウンスではなく、それを情報源として痴漢行為や迷惑行為を行う人がいること。もっと悲しいのは、誰も助けてくれないことでしょう。
また、弊社スタッフからは「『誘導してあげる』と言われることがあるが、知らない人だと怖い」という声が複数上がりました。その人が善意なのかは誰にもわかりませんし、意外と慣れた道なら視覚に障害があっても一人で歩ける人もいます。善意の押しつけは単なる自己満足です。「困っているときに手を差し伸べる」のが善意ですよね。手助けをしたいなら「何かお手伝いしましょうか?」と、してほしいことを聞くのがベストです。
東京オリパラでバリアフリー化が進んだことは救いだった
ただ、ひとつだけ救いがあるとしたら、東京パラリンピックの開催のため、都内近郊で急激にバリアフリー化が進んだことです。エレベーターもエスカレーターもなかったJR御茶ノ水駅は、大規模な改修工事を経て生まれ変わりました。
佐藤「JR新宿駅も、以前はエレベーターが1基しかなく、どこへ向かうにも南口を利用しなければいけませんでしたが、2基になりました。車いすユーザーが乗降に介助が必要なのは、ホームと電車の間が広く空いていたり、段差があるためです。駅ホームにスロープをつけておいて、段差3センチ、隙間7センチくらいになれば、90%くらいの車いすユーザーは一人で乗り降りできるんです。今、JR山手線ではその対応が進んでいます」
都営大江戸線はすでにスロープが全駅についていて、車いすユーザーには以前からとても評判です。一人で昇降できれば、介助もアナウンスも必要ありません。 多くの人が安心して好きな場所へ行けるようになるには、設備のハード面、サポート側の配慮、そして差別をなくす姿勢と、迷惑行為を許さない周囲の正義感が必要そうです。
<取材・文/和久井香菜子>
和久井香菜子
ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表
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