デメリット2 登記は遅くなるだけ費用がかかる

次のデメリットとしては、移転登記が遅くなればなるほど、費用がかかる点である。

先程も説明したように、所有権移転登記は基本的に司法書士などの専門家に依頼することになる。もちろん、専門家に支払う報酬を節約するために、自分たちで手続きを行うことも考えられる。しかし、移転登記を長年放置し、相続人がどこに、何人いるのかわからない状態の場合、素人が移転登記の手続きを行うことは至難の業である。

まず手続きの端緒としては、不動産の所有者の戸籍謄本を取り寄せる必要がある。この場合、その人は既に亡くなっているから、その人の出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本が必要になる。

これだけ聞けば簡単なようだが、実は意外と難しく煩雑な手続きが待っている。その人がかなり前に亡くなっていた場合、戸籍に記載されている住所が、現在存在していない可能性がある。なぜかと言えば、日本では数十年ごとに市町村が合併したり、区画整理などで地域名が変更されたりしているためだ。

また、かなり以前に亡くなった人の戸籍謄本を取り寄せる場合、除籍謄本や原戸籍が必要になってくる可能性もある。除籍謄本とは、在籍している人が誰もいなくなった戸籍のことである。

ご存知のように、戸籍は夫婦と子どもが記載されているが、子どもが結婚した場合には、新たに戸籍を作るため、元の戸籍から抜けることになる。その後、夫婦ともに亡くなった場合には、その戸籍の生存者がいなくなり、空の状態になる。これが除籍謄本である。

また、戸籍法という法律が改正される度に戸籍の様式が変わったり、コンピュータ化されることで新たな様式になったりしているが、それまでの古い様式の戸籍(これを原戸籍という)を自治体が保存している。かなり以前に亡くなった人の戸籍謄本を取り寄せる際には、その原戸籍までさかのぼる必要がある。

もしその故人に、既に亡くなった相続人が5人も10人もいて、その中に個人がいる場合には、その人の戸籍謄本を取り寄せる必要もあるから、手続きはさらに膨大なものとなる。考えただけでも、気の遠くなるような作業であり、専門家でなければ難しいことは容易に想像がつく。

結局専門家に依頼することになるが、ある人が亡くなってその子どもが相続するといった、単純な手続きではないため、自ずと支払う報酬(調査費用など)は高くなる。また、5人、10人の相続人と話し合うための費用、例えば交通費、出張費、文書費なども高額になってしまう。

このように、長年移転登記手続きを放置したことで、高額な出費を余儀なくされるのである。

デメリット3 事情が分かる人がいなくなるかもしれない

三つ目のデメリットとしては、資料の散逸などによって、不動産の事情を詳しく知っている人がいなくなるかもしれない点である。

これは実際に私が相談を受けた事例だが、その相談者の祖父が所有していた田畑があった。祖父は50年以上前に亡くなっているが、その子ども、つまり相談者の父親が所有権移転登記をしないままにしていた。

1年前に父親がなくなり、自分の代で所有権移転登記をしようとした相談者は、意外な事実に驚いて、私の事務所に相談に来たのである。実は、長年祖父の畑だと思っていた土地が、祖父の弟名義の土地だったのである。

祖父の弟も既に亡くなっているが、名義変更をしておらず、そのままになっている。そして色々調べてみると、祖父と祖父の弟が親から相続する際に、お互いの畑を相手の名義にして登記していたことが判明した。

このことは、当事者(祖父、祖父の弟)の間で悩みの種となっており、土地の交換登記をしなければという話は持ち上がっていたものの、そのままになっていたということである。

一番簡単な方法としては、今からお互いの土地を交換登記することであるが、既に双方の当事者が亡くなっており、容易にはいきそうにもない。そもそも、両方の所有者が勘違い(法的には「錯誤」という)をして、登記をしたという事実を証明することもできない。それを示す資料が残っていないのである。

そこで、色々と検討した結果、お互いの相続人が、一旦お互いの土地を相続した後で、間違った土地同士を交換するという方法をとることで落ち着いた。しかしこの方法だと、費用(登録免許税、報酬など)がかかってしまう。それでも、今やっておかないと、今後ますます収拾がつかない事態になることは目に見えている。

長年、移転登記を放置した結果招いたトラブルであることは間違いない。せめて、錯誤の登記だったという資料が残っていれば、対処できたのにと、悔やまれる事案である。

子や孫のために今からできること

以上のように、土地の移転登記を放置しておくと、後々に多大な影響が出てくる。最も理想的な方法は、現金などの遺産の相続手続きを行ったら、時間を置かずに移転登記手続きを行うことである。

もし、親や祖父母が土地の所有権移転の登記をしていなかったらどうすればいいだろうか。まずやるべきことは、資料集めである。土地の権利証(登記済証)、市区町村役場から毎年送られてくる固定資産税明細書があれば、相続対象の土地が特定できることになる。

そのうえで、専門家(司法書士、弁護士、行政書士など)に相談することをお勧めする。前述したように、費用(相談料、報酬、調査費、出張費、登録免許税など)はかかるが、時間が経てば経つほど益々費用がかさみ、手続きは煩雑になってしまうので、早いに越したことはない。

土地の所有権移転登記は、時間との勝負である。時間が経てばそれに比例して、費用や煩雑さが増していく。まさに、放置している不動産の移転登記のタイミングは、思い立った時がベストなのである。

文・井上通夫(行政書士)/ZUU online

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