上から修整液で塗り潰されるなんてたまったもんじゃなかった

不妊治療や流産の話って“禁句”なの?「なんでや!」とぶちきれた日
(画像=『女子SPA!』より引用)

 一泊二日の入院生活を終えて家に帰ると、注文してあった出産・育児本が段ボールいっぱい届いていた。よりによってこのタイミングかよ! とさすがに笑ってしまい、すかさずTwitterに投稿しようとして(以下略)、いよいよ私はぶちきれた。なんでや! なんで内緒にしとかなあかんのや!「流産あるあるすごく言いたい」状態がずっと続いていて、いいかげん我慢の限界だったのだ。  某国民的アイドルのAくんは生まれつき右肩に大きな痣(あざ)があるのだが、雑誌のグラビアに修整が入ってなにもないみたいにつるりと消されてしまったことがある、とかなり昔インタビューで語っていた。次からは修整しないでほしい、痣も含めて自分なのだから、と雑誌側に告げたという彼の気持ちが、そのときになってやっとわかった。短い期間ではあったけど、たしかにおなかの中にあの豆粒みたいな子はいたのに、上から修整液で塗り潰されるなんてたまったもんじゃなかった。  物語に描かれる流産はいかにもおそろしげで、不幸であわれげなものばかりだ。流産した女はみな悲嘆に暮れ、めそめそ泣くばかり。わかりやすく記号的で、私の体験したものとは大きな隔たりがある。  良くも悪くも物語が社会に及ぼす影響を私は理解しているつもりなので、流産してもへらへらしている女のことも書いておかんとなと思い、ちょうど依頼を受けていた新聞のエッセイに書くことにした。共感を求めていたわけでもましてや同清してもらいたかったわけでもなく、「ふ一ん、そっか」ぐらいのテンションで受け止めてもらえればじゅうぶんだった。「こういう人間もいるんだよ」と言いたかった。

悲しみの処し方はそれぞれなのだから、無理をしないのがいちばんだ

 この連載の第一回にも書いたが、みんな知らないだけなんだと思う。知らないから勝手にレッテルを貼り、なんとなく気まずくて、目をそらして見なかったことにしてしまう。  実際に自分で経験するまでは、うかつに触れてはなるまいと遠ざけていたようなところが私にもある。流産したその当日にさえ、夫に買ってきてもらったカツサンドやプリンを貪り食ったり、BLCDのドラマ音声を聴きながらぐふぐふ笑っている女がいることなど、知りようもなかったのだから。  くりかえしになるが、だれもが公言すべきだと言っているわけではない。言いたくなければ言わなくていいし、もし知られてしまったとしても周囲に気を遣って明るくふるまう必要なんてない。割り切れなければいつまでもぐずぐずそこに留まっていればいい。つらい経験を乗り越えることだけが正解じゃない。悲しみの処し方はそれぞれなのだから、無理をしないのがいちばんだ。  それでもいつか、「流産あるある」を言いながらみんなで笑える日がきたらいいな、と思っている。 <文/吉川トリコ>

吉川トリコ
1977年生まれ。2004年「ねむりひめ」で女による女のためのR-18文学賞大賞・読者賞受賞。2021年「流産あるあるすごく言いたい」(『おんなのじかん』収録)で第1回PEPジャーナリズム大賞オピニオン部門受賞。著書に『しゃぼん』(集英社刊)『グッモーエビアン!』『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)『おんなのじかん』(ともに新潮社刊)などがある。


提供・女子SPA!



【こちらの記事も読まれています】
無印良品「メガネ拭き」が買い。パンプスの汚れも落とせちゃう
手書きの「パスワード管理ノート」が人気。 便利&可愛いアイテム3選
3COINS「マスク インナーパッド」で息苦しくない、リップもつかない!
カルディのイチオシ調味料5選。「焼肉ザパンチ」「もへじ」が最強
ダイソー“簡単泡立て器”が神、ふわっふわのオムレツが作れちゃった