『空に住む』で開かれた新境地

『Vision』への出演で俳優として名実ともに実力が付いてきた岩田は、『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(2018)で車椅子生活を送る主人公を演じ、爽やかさと演技派の側面を両立させるバランス力のある好演を見せた。  AI技術による近未来の恐怖を描いた『AI崩壊』(2020)では、大沢たかお演じる冤罪のAI開発者を追いつめていくキャリア警察官役を熱演し、これまで以上にクールな役柄が新鮮で、俳優として幅のある表情を次々に見せつけた。  演じるということに大きな喜びと、自分ではない誰かになり切ることで鍛えられる俳優としての想像力が、岩田の潜在的可能性をどんどん表面化させていったのだ。  この時期、もうひとり名監督との出逢いが岩田の表現力に決定的な影響を与えた。  俳優としてさらに高みを目指すようにして参加したのが、『EUREKA』(2000)など、世界的な評価の高い青山真治監督作『空に住む』(2020)だ。原作は、三代目の数々のヒット曲の作詞を担当した小竹正人で、主題歌は小竹作詞の「空に住む~Living in your sky~」という三代目ファンにはたまらない選曲。  すべてが岩田のために整えられたかのような本作で演じたのは、多部未華子が演じる孤独な主人公・直美が訳ありで住むことになった超高層マンションに暮らす人気若手イケメン俳優・時戸だ。  華やかな若手スターといったイメージのこの役は、ある程度岩田のキャリアと重なる部分もあるが、世間からのクリーンで爽やかなイメージとは裏腹に乱れた私生活を謳歌する時戸に、岩ちゃんを重ねることに何だか複雑な気持ちがしつつも、時戸の危うげな魅力を前にすると直美同様にどうにもらならない。

役柄を超えた生々しい表情

 遊び半分で直美に近づき、身も心もがんじがらめにしていく時戸は、身勝手すぎる最低男だ。毎回ワインボトルを持参して気ままに直美の部屋を訪ねてはそれを飲み干していくのだが、時戸のその飲み方には繊細な演出が施されている。  時戸はワイングラスを持ち上げてメビウスの輪のようにして片手でくるくると回して、口元へ運んでいく。時戸の手のひらで自分も転がされているような気持ちでその回転を見つめていると、ときどき役柄を超えた岩田自身の生々しい表情が垣間見えることに気がつく。  俳優としての存在感を誇示するために直美の前で一粒の涙を流して見せる場面をみても、これが時戸としての演技なのか、それとも岩田自身なのか、もはやその境目がはっきりとはしない。こんな岩ちゃん今まで見たことがない!  青山監督は、この時戸というキャラクターが持つ魔力を最大限活かしながら、岩田に現実と夢を彷徨わせるような演技を意図的に演出することで、岩田剛典というひとりの表現者の可能性をとことん解放し、その“新境地”を引き出した。  このように俳優として表現力を養ってきたからこそ、岩田は「korekara」のセルフプロデュースで改めて自分の表現性を見つめ、模索し、ひとりの表現者としてのイメージに説得力を持たせることができたのだろう。