体罰、暴言、過干渉……子どもを自分の思い通りに支配しようとする毒親。共働きの増加という社会的背景のなか、余裕をなくし毒親化している人が増えている。我が子を愛する普通の親でも、知らない間に子供を追い詰めている可能性があるのだ。
子どもの脳を壊す、避けるべき親の言動とは?
子どもの脳は大人に比べ、外部からの刺激で傷つきやすい。小児発達学診療のパイオニアで脳科学者の友田明美氏は、“愛のムチ”という美名の下に行われる体罰や暴言は「百害あって一利なし」だと断言する。
「たとえ、虐待とまでいかない行為でも、子どもの脳を傷つけることはあるのです。こうした、大人から子どもに対する、避けたい関わりの総称をマルトリートメント(略してマルトリ)と呼んでいます」
マルトリは、体罰や暴言のほか、ネグレクトや性的な行為も該当する。たとえば、小学6年生以下の子どもに留守番させるといった行為もネグレクトにあたり、マルトリの一種となる。
「マルトリの種類によって、ダメージを受ける脳の部位も異なってきます。体罰を受けて育った人の脳には、感情のコントロールに関わる大切な部位である“前頭前野”の一部に縮小が見られます。ここに問題が生じると、犯罪抑止力が著しく低下して将来、非行に走りやすくなります。
また、侮辱、非難、過小評価といった言葉の暴力、性的マルトリもコミュニケーションにおいて重要な働きをする“聴覚野”が変形し、言語を理解する力の低下を招く可能性がわかっています。ちなみに、性的マルトリは、思春期の子どもの前で親が裸でウロウロするなどの行為も該当します。親にとって悪気がなくても、子どもの脳を傷つける恐れがあるのです」
いずれの場合も放置しておけば、素行障害や気分障害(うつ病の一種)が発症しやすく、心(こころ)の傷を癒やすために薬物やアルコールへの依存を強め、結果的にがんや脳卒中で若くして亡くなるリスクを高めることになるという。
夫婦喧嘩が子供の脳にもたらす影響
また、子どもに直接行使される鉄拳制裁や言葉による攻撃のみならず、家庭内でのDVや激しい喧嘩の様子を見聞きさせることも、子どもの脳に悪影響を及ぼすと、友田氏は指摘する。
「夫婦間でDVが横行している家庭で育った子どもたちには、後頭葉にある“視覚野”の容積が減少することが分かりました。ここは視覚的な情報を一番初めに取り込む部位であり、縮小すると記憶力や学習能力の低下を招く可能性がわかっています。
実際、ハーバード大学の在学中の女子大生を対象に行われた調査では、激しい夫婦喧嘩を見て育ったグループは、そうでないグループよりもIQと記憶力の平均点が低いという結果が出ています」
さらに驚きなのが、殴る、蹴るといった身体的なDVを目の当たりにした子どもよりも、罵倒行為や陰険な当てこすりといった言葉による精神的なDVを見聞きした子どものほうが、6倍近く脳に悪影響を受けるという点だ。
「自分たちだけが喧嘩していても、子どもには影響がないとたかをくくっている親もいますが、夫婦間の言い争いは子どもの目の届かないところで。不満が溜まっているのなら、メールやLINEを使って喧嘩するのも手」
マルトリートメントは、子を持つ親なら誰しもが行う恐れがある。だからこそ、親は普段の何げない自分の言動を振り返ってみる必要がある。