仕事で作るような「稟議書」を夫に出した妻

 夫がASDだったケースですが、偏差値の高い有名国立大学出身の夫が、大学の偏差値で妻のことを見下していました。妻がPTAの会合に行く際、小ぎれいな服を着たいと言っても、夫はPTAには価値がないと思っているので、ユニクロで十分だと言います。妻の同窓会に対しても、「同窓会なんて価値がない。自分だったらわざわざ新しい服を買ってまで行かない」などと言って、一向に話が噛み合わなかったのです。

「お前と話してもムダ」話の噛み合わない夫に、有効だった意外な作戦
(画像=『女子SPA!』より引用)

日頃、夫は「お前みたいに偏差値の低いやつに文句を言われたくない」と言って、一ヵ月分の生活費10万円だけを渡し、一方で自分の趣味や好きなものについては妻に相談することなく、高いものを買っているのです。妻には生活費として10万円を渡しているし、自分で稼いだお金なのだから文句を言われる筋合いはないという態度です。

 そんな夫に対し、この妻はどう対処したかというと、夫に対して「稟議書(りんぎしょ)」を書くことにしたのです。上司に承認してもらうかのように理由をつけて稟議書を書けば、「なるほど、こういう理由か」と、夫を説得できたそうです。笑い話ではなく紛れのない事実です。そこまでして夫婦生活を続けなければならないのか、という意見もあるでしょうが、ひとつの対処法といえるでしょう。

 ASDの人が「うまくいっている」と感じている時は、すべてを把握し、周囲をコントロールできている時だけなのです。逆に自分がコントロールされていると思うと、怒りを感じます。ASDの人が問題行動を起こした時は、そんなことが頭の中で起こっているのです。

独り言のような「つぶやき作戦」も有効

 コミュニケーションの方向としては、「妻から夫へ」という流れが一般的ですが、その際、心からの訴えや要求や意見は、情緒的な性質のものであるため、ASDの人にとっては理解することが難しいのです。感情を含まない「無機質な情報」として伝わってくると受け入れやすくなります。

「○○をして(しないで)ほしい」といった言葉では、ASDの人は理解できません。  決して感情的にならず、「無機質な情報」という形で伝えるのです。わかりやすく、やさしい言い方を心がけ、くれぐれも感情を抑えて言ってみます。

 具体的には「つぶやき作戦」が効果的です。こちらの意図している通りに行動してもらうべく、独り言をつぶやくように言うのです。その際、相手の目を見て話すのではなく、横に座ってあくまでもさりげなく言葉を発すること。その時に反応はなくても、情報として確実にインプットされています。しばらく時間が経過したとしても、しっかりと対応してくる可能性が高いのです。

「お前と話してもムダ」話の噛み合わない夫に、有効だった意外な作戦
(画像=『女子SPA!』より引用)

この作戦が成功したある夫婦のケースです。結婚生活に絶望していた妻は、コミュニケーション自体をあきらめていました。診断の際に「何気なく、独り言のように情報として伝えてみてください」と専門医からアドバイスを受けます。「夫は絶対話を聞いていませんから、そんなことをしても無駄です」と、その時はあきらめモードだったのですが、ある日、「この時期は○○にある藤の花がきれいなのよね……」と、以前から行ってみたいと思っていた場所をふと思いついたようにつぶやいてみたそうです。

 すると数日後、日頃から無口で家族についても無関心だった夫が、パソコンでその名所を検索し、プリントアウトしていたことを知ります。妻は何気なく気づいたという素振りをすると、話が具体化し、その場所に二人で出かけることになりました。子どもが生まれてから、夫婦が並んで歩いたはじめての機会だったといいます。