「この投資信託は評価機関で『◯◯賞』を受賞しました」

上記は銀行員のセールストークの一つである。読者のなかにも実際に「◯◯賞受賞」の投資信託を勧められた人もいるかもしれない。パンフレットに「◯◯賞受賞」と誇らしげに書かれたロゴを見せられた人もいることだろう。

公平であるはずの評価機関で受賞した投資信託ならば、きっと間違いない……投資家がそう考えるのも無理のない話だ。だが、あえて言わせて頂く、「評価機関」の評価ほどアテにならないものはない。

どれだけ多くの賞をつくれば気が済むのだ?

投資信託を購入する際には、販売サイドである金融機関から発信される情報だけでなく、第三者による情報をあわせてチェックし、いろいろな角度から比較検討すべきである。だが、現実問題としてごく一般的な銀行の利用者にとっては、決して容易ではない。

まず、どこで情報を入手できるのかも分からなければ、入手した情報をどう分析して良いのかも分からない。そこで「評価機関」による評価を参考にしようと考えるのは、ある意味当然といえる。

マネー誌やパンフレットで「〇〇賞受賞」と紹介された投資信託を目にすることは珍しくない。評価機関は第三者の立場から、投資信託のパフォーマンスを客観的に評価し、格付けなどを行なっている。そして優れたパフォーマンスを残した投資信託に対して賞を与えているのだ。そう、少なくとも表向きは……。

あなたは、ネットなどで「投資信託の受賞」について調べてみると、ある不可解な事実に気づくかもしれない。「一体どれだけ多くの賞があるのだ?」と困惑するだろう。実際、銀行員の私でさえもどれだけの賞があるのか検討もつかない。投資信託の賞は、それほど乱発されていると考えて良い。

ある評価機関の賞を見ると、2015年は8部門で最優秀ファンド賞が8本、優秀ファンド賞28本で合計36本のファンドが受賞している。賞は国内株式大型部門、国際株式型部門……といった具合に細かく分類されている。

例えば、債券型部門では最優秀ファンド賞は1つだが、優秀ファンド賞は6つもあるのだ。さらにその内容をより詳細にみると、米国の社債で運用するものがあれば、欧州のハイイールド債で運用するものもある、インドの債券もあれば、為替リスクを取らず日本国内の債券のみで運用するものもある。これほど受賞の対象が多岐にわたっていては、結局何が良いのかさっぱり分からない。

客観的なデータをもとにパフォーマンスを分析しているのであれば、本来はこれほどたくさんの賞が生まれるはずはない。

「良いものは良い。悪いものは悪い」それは誰が判断しても同じはずである。評価機関によって受賞ファンドが異なることも、よくよく考えてみるとおかしい。

世の中にはあまりにたくさんの賞が存在しているのだ。

投資信託の賞が乱発される本当の理由

銀行の金融商品販売の現場に携わる私は「現場の実態」について正直に思うところを ZUU online に寄稿させて頂いている。その際に最も気を遣うのは「盗用」、いわゆる「コピペ」である。その気はなくても、偶然どこかのサイトで全く同じ表現が使われているというケースだってあるからだ。

そう、他人様が創ったモノを無断で利用することは許されない。

投資信託のパンフレットに華々しく描かれている評価機関の賞のロゴだって同じである。「〇〇賞受賞」のロゴを使うには当然ながら、運用会社は使用料を支払う必要があるのだ。

ここに同じような内容の投資信託があったとしよう。あなたは、賞を受賞した投資信託と、無冠の投資信託のどちらを選ぶだろう? それは窓口で投資信託を販売する銀行員にも影響を与える。受賞した投資信託のほうが売りやすいのは確かだ。

投信の運用会社が支払う「ロゴ使用料」が評価機関の大きな収入源になっているのをご存じだろうか。運用会社は賞の受賞でハクがつき、投資信託の販売促進に役立つ。評価会社はロゴをたくさん使ってもらうほど使用料を得ることができる。

双方にとってたくさん賞があるほど、互いにメリットがあるのだ。こうして賞は乱発されることになる。