DRESSの『運命をつくる私の選択』は、これまでの人生を振り返り、自分自身がなにを選び、なにを選ばなかったのか、そうして積み重ねてきた選択の先に生まれた“自分だけの生き方”を取り上げていくインタビュー連載です。今回のゲストは、女優の加藤夏希さん。
12歳で芸能界デビューし、女優・モデルとして活躍し続ける加藤夏希さん。現在は3児の母をしながら、タレント活動の他、自身のYouTubeチャンネルの更新も精力的に行っています。しかし、10代の頃は人に興味がなく、妄想の世界にひとりこもっていたのだそうです。妄想が好きだった少女は、どのようにして長年第一線で活躍し続けられる女性へと成長していったのでしょうか。お話しを伺いました。
ヘアメイク :長谷川睦
スタイリスト :村田裕貴(YellowThings)
取材・文 :仲奈々
写真 :池田博美
編集 :小林航平
■妄想の世界に没頭していた子ども時代。心の拠り所は”ゲームのチャット”だった
ーー加藤さんは幼い頃から女優・モデルとして活動をされてきましたが、芸能界に入るまではどのような子ども時代を過ごしていたのでしょうか?
子どもの頃は人形遊びやおままごとが大好きでした。でも、自分の頭の中で描いたストーリーへのこだわりが強かったので、誰かが入ってきて流れを乱されるとイライラしてしまって……。そのせいで、親や友達と遊ぶよりもひとりが好きな子どもでしたね。特に人形遊びは自分の世界に没頭できるのが心地よくて、小学校にあがってからも大好きでした。一方で、周りの女の子たちが好きな男の子の話で盛り上がったり、友達同士でプリクラを撮りにいったりと遊び方が変化していく中、「なんだか私だけ幼いまま」と恥ずかしさを感じていたんです。
芸能活動を始めて最初に『燃えろ!!ロボコン』という特撮ドラマに出演したのですが、そこに広がっていたのは、人間とロボットが共存していて、しかも大人とロボットが一緒に遊ぶのも普通の世界。「お芝居の世界には私の仲間がいた!」と感動したのを覚えています。
小学生からは人形遊びのほかにアニメやゲームにも夢中になりました。あるとき、大好きなアニメの声優さんがラジオ番組を持っていることを知って……。アニメで見ているキャラクターと声は一緒なんだけど、作品のイメージとはかけ離れていることを話している! と衝撃を受けました。
私が小さい頃は『セーラームーン』が流行っていたんですが、普通の女の子たちが強くてかっこいい戦士に変身する姿を見て、私の中に変身願望が生まれていたんですね。それで、ラジオに出ていた声優さんもセーラームーンと同じで、アニメに出演するときにはいろんなキャラクターに変身していることを知って、声優さん自身にも興味が湧いてきたんです。それからどんどんラジオにはまりましたね。自分の声を録音して、声優さんのラジオ音源と組み合わせて「大好きな声優さんと一緒にラジオ番組に出演している!」と妄想して遊んでいました(笑)。遊び方は変わりつつも、妄想の世界にひとり没入する性格は子どものときから変わっていません。
ーー加藤さんは12歳で芸能界デビューしていますよね。デビュー後、人との関わり方に変化はありましたか?
デビューしてからもプライベートでは自分の世界にこもることが多かったですね。でも、中学生になってからはどこかのグループに所属していないと学校の先生に心配をかけてしまうと思い、いろんなグループを転々としていました。
ーー中学生って多感な時期でもあるじゃないですか。だからこそ、決まったメンバーだけで遊ぶ子たちもいたと思うのですが、加藤さんはどうやって複数のグループに溶け込むことができたのでしょうか?
あ、そういう意味では溶け込めてはいなかったですね……。すごく不自然な形でグループに所属していたと思います(笑)。普段はひとりでいる時間が多かったのですが、学校で生活をしていると、給食を食べるときや課外授業のときなど、どうしてもグループを作って行動しないといけないときがありますよね。そういうときにひとりで“ポツン”としていると先生に心配されるんじゃないかと思っていて……。周りの空気を読んで「あ、今はひとりでいちゃいけない!」と思ったら、近くのグループにサッと混ざっていました。普段一緒にいない私がさも「前から友達!」のように突然入ってくるので、そのグループの子たちはびっくりしたと思います(笑)。
ーー周りの同級生の反応は気にならなかったのですか?
自分のことで精一杯で周りを気にする余裕がなかったんですよね。大人である先生には心配かけたらまずいなって思っていたのですが、大勢いる同級生の顔色まではうかがう余裕がなかった。特に芸能活動を始めた頃は本当にいっぱいいっぱいで。ドラマや映画のせりふを覚えるのに毎日必死で、一日中そのことが頭を支配していたんですよね。
当時苦労したことでいうと、私はそのとき演じている役にも影響されやすくて……。お仕事で不良の役を演じたときには、プライベートでも口調が荒くなっていました。母親に「お前!」って言ってしまうことも。母はもちろん私自身もびっくりしてしまって「ごめんなさい、今やっている役の影響だから!」って平謝りした記憶がありますね。10代の頃は仕事とプライベートのバランスがうまく取れず、とにかく余裕がありませんでした。
ーー忙しい毎日で、ストレスを溜め込むこともあったかと思います。加藤さんは、そのような状況をどのように生き抜こうとしていたのでしょう?
パソコンでできるオセロゲームに癒されていましたね。ユーザー同士がチャットで会話もできたので、今で言うオンラインゲームの走りのようなものでした。
このゲームの中には私を「加藤夏希」と認識している人は誰もいない! と思って遊べる……その感覚がうれしかったんです。小さい頃から芸能界にいたので、仕事以外の場所……たとえばプライベートで遊びに出かけたときでも、学校生活の中でも注目されやすくて。だから、どうしても「イメージよく見せなきゃ」と思って気を張ってしまうんですよね。けれど、ここには私のことを知っている人は誰もいない。だから素の自分を出せたんです。自分の分身をゲームの中に作って、別の人生を楽しんでいたんだと思います。
最近はドラクエにはまっていて、ゲーム上で演劇部を作るなどドラクエとは関係ないことをして遊んでいます(笑)。大人になった今でもゲームが素の自分を出せる場所であることに変わりはないですね。
■“大人っぽい見た目”で“かわいいものが好き”に苦しんだ10代
ーーさきほど「ドラマや映画のせりふを覚えるのにいっぱいいっぱいだった」とお話しされていましたが、芸能界ではどのようにキャリアを積み重ねてきたのでしょうか?
10代の頃は自分の見た目と中身のギャップに苦しみました。10歳くらいから現在の顔とほとんど変わらなかったので、当時は実年齢よりも大人な役のオファーをいただくことが多かったんです。でも、中身は年齢通りの子ども。なんならいつまでもお人形遊びが好きで、同年代の子と比べても幼い性格なんですよ。だから、いざ大人を演じてみてもいまいち役に入りきれなくて……。
ーー当時の加藤さんは、どのような役を演じたかったのでしょうか?
昔から「小さくてかわいい女の子」が好きなんです。セーラームーンで例えると、ちびうさちゃんとか土萠ほたるちゃんとか。小さな体で一生懸命何かをがんばっている姿に心を奪われがちで。だから、芸能界に入ったときには「小さくてかわいい女の子を演じてみたいな」と思っていました。でも、見た目は大人な私が「小さくてかわいい子」役のオーディションを受けても全然通らない。やりたい役は見た目で落とされる。オファーをいただく役は見た目で選ばれているので中身が伴わず入り込めない。「外見と中身がチグハグな私は、いったい何の役ができるの?」と当時はすごく悩みました。
ーーその悩みを加藤さんはどうやって克服したのですか?
20歳を過ぎた頃から見た目に精神的な部分が追いついてきたんです。そこから大人の役にも感情移入できるようになってきました。こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかありませんでしたね。小さくてかわいい子役への憧れも、「私がやりたい!」から少しずつ「見ているだけで十分!」と思えるようになってきたんです。今の言葉を使うと「推し」ですね(笑)。
自分のことで精一杯だった10代の頃はとにかく余裕がなく、芸能界での自分の立ち位置がわからずに苦しい思いをすることも多くありました。でも、少しずつ大人になるにつれて「私は私」と思えるようになったんです。小さくてかわいい女の子にはなれなかったけど、私だからこそできる役があると受け入れられるようになりました。
■一人ひとり違う人生がある。「秋田県人会」をきっかけに人に興味を持ち始めた
ーー10代の頃と比べて余裕が出てきた20代。周囲の人たちとの関わり方に変化はありましたか?
年齢を重ねるにつれてより深く付き合える友達が増えたと思います。それでも、20代の頃は、自分の趣味を優先させることがまだまだ多かったですね……。「もっと人と関わっていきたい!」と思うようになったのは、秋田県出身の芸能人が集まる「秋田県人会」を主催したことがきっかけです。
秋田県人会を開催したきっかけは成り行きでした(笑)。自宅でテレビを見ていたときに、福岡出身の芸能人が集まる福岡県人会の様子を放送していて。それを見て「同じ県出身の人たちで集まったら楽しいだろうな、秋田にはそんな集まりないのかな」と思って、軽い気持ちで秋田出身の大先輩である藤あや子さんに尋ねてみたんです。藤あや子さんから「私はあるかどうか分からないけど、私よりも先に上京している柳葉敏郎さんなら知っているかも」と情報をいただけて、今度は柳葉さんにお伺いすることに。そうしたら柳葉さんから「秋田県人会はないけど、夏希ちゃんが開催してくれるなら参加するよ」とお返事をいただいて……。いつの間にか私が秋田県人会を主催することになっていたんです。
ーー成り行きで決まった秋田県人会の幹事。そこから“人に興味を持つようになった”のはどういう経緯があったのですか?
メンバーになってほしい人に声をかけるときに「どうしたらこの人は参加してくれるんだろう」「どんな考えを持っていて、何に興味がある人なんだろう」と真剣に考えたからですかね。お声がけする前にこれまでの出演作品やインタビュー記事を調べて共通の話題を探し、一人ひとりにラブレターを送るような気持ちでお誘いしていました。その過程で「みんなそれぞれいろんな人生があって面白いな、もっとお話ししてみたいな」と思うようになったんです。
それまでは、ゲームの中の匿名性の強い環境でばかり友人関係を作っていたので、その人が持つ背景や考えを知った上で関係性を築いていくプロセスがすごく新鮮だったんですよね。
■高頻度のSNSの発信は困っている人、そして自分自身のため
ーーここ数年、加藤さんはご自身のライフスタイルをSNSなどで積極的に発信していますよね。それも“人に興味がでてきたから”なのでしょうか。
そうですね。ひとり目の子を出産するときにたくさんベビーグッズを購入したんですけど、産後実際に役に立ったものってその中の一握りで……友人が出産するときに「本当に必要なベビーグッズはこれだ!」とリストを送ったら、すごく喜んでもらえたんですよね。「私の経験が誰かの役に立つことがあるんだ」と思い、SNSでも発信するようになったんです。周りの人に対して自分は何ができるのかを意識し始めたからできたことですね。
ーー具体的にどんなことを発信しているか教えていただけますか?
自身の妊娠・出産の話や家事・育児のこと……あと最近はゲーム実況もしています(笑)。たとえば、私はふたり目、3人目出産時に切迫早産で入院したのですが、そのときにインターネットで「切迫早産 入院準備」と検索してもほとんど情報が出てこなくて。通常の出産時の入院準備に関する情報は山のようにあるんですけど、少しマイナーなものとなるとなかなか見つけることが難しかったんですね。「同じように困っている人がいるはず」と思い、切迫早産で入院したときの話を発信し始めたんです。
あと、実は自分のためにSNSをやっているところもあるんです。
ーー「自分のためのSNS」とは、どういうことでしょうか?
そのときの気持ちを忘れたくないんです。人って記録しないとどんどん忘れていくじゃないですか。私がひとり目を妊娠したとき、母に私を産んだときの話を聞いたら「覚えてないよ」と言われたことがあって……。母が私を出産した頃はまだ写真くらいしか記録に残せるものがなかったから覚えていなくて当然だよねと納得しつつ「私は出産したときの気持ちをずっと覚えていたいな」と思ったんです。幸い、今は動画があるから母の頃より鮮明に記録に残せる。自分の子どもが親になるときに、当時の気持ちも情景もサッと引き出して伝えられるようにしたいと思い、写真、手紙、日記、動画、SNS……いろんな媒体で記録を残しています。
ーー加藤さんの発信により救われる人もいる一方、厳しい声が届くこともあるかと思います。そんなとき、加藤さんはどう対処するのでしょうか?
たしかに悩みを発信することで、そこに共感してくれる人もいれば傷つく人もいるんですよね。だから発信の仕方はすごく難しいなといつも思っています。
3人目妊娠中に切迫早産の診断を受けたときの話なんですけど……お医者さんからは自宅で絶対に安静にしてくださいと言われているのに、園からは「お母さんが自宅にいるなら早くお迎えに来てください」と言われて困ったときがあって。こんなとき、他のお母さんたちはどうしているんだろうと思ってその悩みをTwitterに投稿したんです。そうしたら、私の想像以上に反響がありまして……。共感してくださる方々もいる一方で「行政が決めたルールなのに、園側に対応を求めるのは間違っている」「園の人たちだって保護者と行政の板挟みにあって困っている」などのお声をいただきました。そのときに、自分の行動によって傷つけてしまった人がいたんだなと気付いたんです。
私の場合、厳しい意見を受け取るときって瞬間的にグサっとくるけど、後から考えると「私の配慮が足りていなかったな」「図星だからグサっときたんだな」と思うことが多いんです。大人になると人から叱られる経験って貴重だから、厳しいお声にも素直に耳を傾けて、受け入れられる人になりたいなと思っています。
ーーすごく素敵な考えですね。でも、厳しい声を受け続けているとつらくなりませんか?
自分から傷つきにいく必要はないと思うので、エゴサーチはしないとか、発信する内容はできるだけ他者が絡まない内容を選ぶとか、自分なりに回避策は持つようにしています。
それから、自分の気持ちをコントロールする術として、ネガティブな感情は発信しないようにしています。私、昔からせりふを紙に書いて覚える習慣があるのですが、せりふ以外でも覚えたいことがあったら普段から紙に書いたり、SNSに投稿したりしていて。逆に言うと、ネガティブな感情を記録すると記憶してしまうんですよね。そのためにいつまでもマイナスな感情を引きずってしまうこともあって……。だから、ネガティブな感情は紙にもSNSにも記録しない。どうしても発散したいときは、声に出して自己処理をしています。そのせいか、夫からは「夏希は独り言が多いよね」と言われるんですけど(笑)。
■生まれ変わってもきっと、今まで生きてきた道を選ぶ
ーー12歳で芸能界に入って、これまで苦労したことも多かったかと思います。他の道に進むことを考えたことはなかったのでしょうか?
そうですね、人生をやり直せたとしても、私はきっと芸能界に進む道を選ぶと思います。
小さい頃から芸能界にいたために、プライベートでも素の自分を出せずにつらい思いをしたときもありました。世間では「大人っぽくてクールな加藤夏希」と認識されているかもしれないけど、いつまでも人形遊びが好きな子どもっぽい自分がいて。「外見は大人っぽいとか言われるけれど、実際はこんな趣味を持っているなんて知られたら気持ち悪がられるかな」と思い悩んだこともあります。
でも、ひとりで自分の世界に閉じこもって、妄想をたくさんしてきたからこそ今の私があると思っているんです。実は、芸能界に入ったきっかけも妄想なんです(笑)。
ーー芸能界にはいったきっかけが妄想? 詳しくお伺いしたいです!
自宅でテレビを見ていたら、シャンプーのCMが流れてきて。それを見た瞬間、私がそのCMに出ている姿が浮かんだんですよね。「私はこのCMに出るんだ!」と思い、その勢いでオーディション情報が掲載されている雑誌を購入して……。当時よく遊んでいたゲームのイメージガールのオーディション情報を見つけて、そのまま応募しました。それで一次審査、二次審査と進んで、気が付いたら事務所に所属していたんです。
ーーすごい行動力ですね。妄想に従って行動することは怖くはなかったのでしょうか?
私、これまでも妄想とか直感を頼りに生きてきているんですよね。シャンプーのCMを見て芸能界に飛び込んだときもそうだし、秋田県人会も思いつきから始めたことだったし。
小さい頃から自分でストーリーを作って人形遊びをすることが好きだったり、好きなラジオ番組にあわせて自分の録音した声を流してラジオパーソナリティを気取ったりと、妄想の世界で生きてきました。だから妄想のまま突き進むことに抵抗があまりなかったんだと思います。長い間ひとり自分の世界に閉じこもってたくさん妄想をしてきたから、そのイメージを信じていれば大丈夫だと思えたし、自信を持ってその道に進むことができたと思うんです。
ーー「恥ずかしい」と思っていた過去も、すべてが今のご活躍につながっているんですね。最後に、今後加藤さんが挑戦したいことを教えていただけますか?
自作ドラマを作ってみたいです。自分で脚本を書いて、演出もしたいですね。
テレビでドラマを見るときも、自分がドラマに出ているときも、勝手にその続きを妄想しちゃう癖があるんです。で、だいたい私の妄想とは違う展開になって「裏切られた!」という気持ちになる(笑)。演技するのはとても楽しいのですが、お仕事となると自分で考えたストーリー仕立てに動くわけにはいかないじゃないですか。一緒にドラクエをして遊んでいるメンバーで、オンライン上で演劇部を作ってドラクエとは関係ない遊びをしているってお話をさきほどしましたが……そこでは、私が監督として脚本を書いて、演出まで手掛けています。自分でストーリーを動かしていく楽しさに魅了されて、いつか現実でも監督をやってみたいなと思うようになったんです。
私のYouTubeはライフスタイル配信やゲーム実況が中心ですが、今後大学の映画研究会のような感じで、自分の思うがままに演出したドラマを配信したいですね。長年培った妄想力を、これからもとことん活かしていこうと思っています。
加藤夏希プロフィール
1985年生まれ。10代の頃から女優、トップモデルとして活躍。ファッションアイコンとしても注目を集め、商品プロデュースも行う。同世代はもちろん、高い演技力で好感度抜群の実力派女優でありながら、クールなビジュアル、愛らしい笑顔の相反する魅力も持ち、幅広い世代から人気を集めている。
【衣装クレジット】
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