不妊治療をしている間に夫側が不倫の恋にはまってしまう話はときどき聞く。だが女性にとっても不妊治療はストレスのもとになり得る。
結婚が遅かったので焦っていた
35歳から婚活を始め、38歳のときに3歳年下の男性と結婚したトモカさん(43歳)。1年たっても妊娠しなかったため、不妊治療を始めた。
「最初は人工授精を何度かやったんですが、うまくいかなくて……。それ以上になると時間もお金も労力も使う。だから悩んだんですが、私は夫のことが本当に好きだった。どうしても夫の遺伝子を残したい、私たちの子がほしいと夫を半年かけて説得しました」
子どもがいなくても僕はじゅうぶん幸せだし、トモカとふたりで生きていけたらそれでいい。夫は何度もそう言った。特別養子縁組とか里親とか、他にも親になる方法はあると夫は彼女を逆に説得しようとしたが、彼女は気が済まなかった。
「夫の子でなければ意味がない。そう思い込んでいました。私は夫の子を育てたい。お願いだから2年だけやりましょうと夫に言いました。夫も渋々でしたが協力すると言ってくれて。40歳から本格的に体外受精などを始めたんです」
夫と口げんかになった
仕事で責任ある立場にいるトモカさんにとって、不妊治療は確かに考えていたよりずっと大変だった。途中で何度も気力が萎えた。そのたびに医師と夫が励ましてくれたという。
「1年たって半分気持ちが折れそうになっているとき、夫が『きみがやるって言ったんだろう』とイライラしたようにつぶやいたんです。
確かにそうだけど、実際、大変な思いをしているのは私だし、とちょっとした口げんかになりました。結婚して初めてでしたね、言い争いをしたのは」
夫婦喧嘩 子どもを間に挟んで、夫婦の愛情をもっと高めていきたいと思っているのに、実際には子どもができる前から諍(いさか)いをしている。その事実がトモカさんを苦しめた。
「このまま不妊治療を進めていいかどうか悩みました。とはいえ、やめたとしてもふたりで言い争った事実は消えない。夫婦なんてもろいものなのかもしれないと珍しく弱気になってしまいました」
そんなとき、仕事上でも大きなストレスを抱えるようなことが起こった。部下を叱っているだけでは先には進めない。彼女は責任をとって始末書を書き、部下には前向きに指示を飛ばして「一緒にがんばろう」と励ました。だが当の彼女は孤独感を覚えると同時に、少し自暴自棄になっていた。