シンガポールではAIを駆使した大がかりな医療ケアシステム改革

日本より30年遅れて高齢化社会入りしたシンガポールでも、急速な少子高齢化が問題視されている。2009年には9.4%だった65歳以上が2017年には14.4%に膨張。国民年齢の中央値も41歳から41.3歳にあがった。

対照的に20~64歳の割合は4.7%(前年比0.3ポイント減)に減っており、2030年には2.4%までさらに落ち込むと予想されている(ストレイツタイムズ紙より )。

厚生労働省は対応策としてヘルスケアシステムの改革に着手している。AIを含むテクノロジーを活用し、これまで「知識集約型・労力集約型」だったヘルスケアを、より効率的で低コストなへと作り変えるという発想だ。

シンガポールが目指す新たなヘルスケアは、「システムの標準を維持しながら、国民が自宅から遠く離れることなく、最適な治療や介護を受けられる」というもの。実現には、AIベースの「パフォーマンス分析」が大きく貢献すると期待されている。

また「病名特定戦略」にもAIが大活躍する。例えば糖尿病に関するデータから予測モデルを構築すれば、予防・治療に向けた早期介入プログラムを設計しやすくなる。

人手不足を解消するためにAIを使ってベッドを管理しているタントックセン病院 では、最低4人は必要だった担当チームの人数を半分(2人)に減らすことに成功した。2015年から徐々に業務のロボット化に乗りだしているチャンギ総合病院では、診察前に患者への質問を行う、「ロボット看護師」の開発を検討中だという(アジア・メディカル・アカデミーより)。 

アクセンチュアはAlexaなどを利用した「AI在宅支援プラットフォーム」

欧米でも同様の取り組みが進んでいる。

アクセンチュアは2017年8月から3カ月間にわたり、英国ロンドンで、AI技術を使って高齢者の生活を支援するプロット・プロジェクトを実施した。Amazonのクラウドサービス「AWS」をベースにしたAIプラットフォーム「アクセンチュア・プラットフォーム」を 通し、70歳以上の高齢者の生活習慣や行動を学習し、身体的・精神的支援に役立てる意図だ。

高齢者の家族や介護士はプラットフォームから、「薬を飲んだか」など日常的な習慣を確認でるほか、異常な行動パターンが検知された場合、通報を受けるシステムになっている。高齢者はAmazon Echoを通し、家族や介護士に要望を伝えたり、地元のイベントや仲間作りに役立つ情報を得ることができる。

実験にはAmazonの音声認識サービスAlexaが使われた。開発キット「Alexa Skills Kit 」に必要なスキル追加し、AWS Lambda(サーバーの管理なしでコードを実行できるコンピューティングサービス)やAmazon S3(オンラインストレージのウェブサービス)などが用いられた。

実験に参加した70歳以上の高齢者60人からは、「友だちが隣の部屋にいるようだ」「このデバイスなしの生活はもう考えられない」など、非常にポジティブなフィードバックを得ている。

また米国では、Alexa向けの音声認識による医師検索サービス機能を開発するなど、高齢者の在宅支援に積極的に取り組んでいる。

高齢者コミュニティー地域で自動運転タクシーを促進

米国カリフォルニア州では高齢者向けの自動運転タクシー普及計画が進められている。自動運転タクシー・スタートアップ、ボヤージュ(Voyage)が促進しているもので 、ベイエリアにある主要都市サンノゼの高齢者コミュニティー地域内で、高齢者に自動運転タクシーサービスを試験的に提供している。

試験期間終了後、安全性などの課題がすべてクリアすれば、サンノゼに暮らす12.5万人の高齢者だけではなく、一般への住民サービス提供も検討している。ボヤージュは設立1年未満にも関わらず、このプロジェクトに向けてすでに2000万ドル以上の資金調達に成功している。自動運転による移動手段に対する、社会からの期待の高さをうかがわせる。

しかしこうした市場の期待と高齢者の需要に、かなりの温度差がある事実も無視できない。一例を挙げると、自動車関連情報調査企業ケリー・ブルー・ブックが2016年に実施した調査で、「自動運転車(AV)を利用してみたい」と答えた51~64歳の回答者はたったの9%だった(BBCより )。AV利用への不安をいかにして高齢者から取り除くかが、AI市場における今後の課題のひとつだろう。

「高齢者が簡単に安全にAIと共存できる環境作り」が課題?

在宅AI支援ツールや看護師ロボットなどにも同じことがいえる。当事者である高齢者が心地よく安心して利用できなければ、いくら時間とお金をかけて開発しても普及は難しいのではないだろうか。

「インターネットやスマホは使える」高齢者は増えているが、在宅AI支援ツールなどは操作が複雑であればあるほどハードルがあがる。「自宅にあるが使いこなせない」という結果にならないように、「ユーザー側から操作する必要がある機能を最低限に絞る」など十分な配慮が必須となるだろう。

テキサス A&M ヘルス・サイエンス・センターのレイ・リン・ミッシェル氏は 、プライバシー保護に懸念を示している。Amazon AlexaやGoogle Homeに代表される「音声認識型パーソナルアシスタント」には、電源を切らないかぎりあらゆる会話や物音を四六時中「聞かれている」可能性がつきまとう。Amazon、Google、ともにそうした疑惑を否定しており 、あくまで「懸念」の域にとどまるものの、絶対に起こり得ないとはだれにも断言できない。

ミッシェル氏は「医療目的のアプリ」に対する、保険企業の反応についても指摘している。これまで人間の医師による診断や治療に対して支払われてきた医療保険だが、将来的にAIががん細胞を発見したり診断を下した場合はどうなるのか。明確にすべき課題は山積みだ。

テキサス・ライフサイエンス・ファウンデーションのディレクター、デボラ・ウォルマー博士 は、AIが高齢社会を支えていくうえで、「安全で簡単、手頃な価格」で利用できる商品・サービスを提供するとともに、コンピューター科学者から老年学、公衆衛生調査員、法律家など、広範囲な分野で活躍する専門家が改革にかかわるべき」とコメントしている。

文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)/ZUU online

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