「プロが運用しているから安心です」

上記は、投資信託のセールストークの一つである。

銀行員がこうした言葉を口にするのを聞く度に、或いはパンフレットにこうした文言を見つける度に、私は「強烈な違和感」を感じる。

はっきり言おう。プロだから安心などという話には全く根拠がない。プロだからあなたよりも上手く運用してくれるという保証などどこにもない。未だにそんなセールストークを使う銀行員のなんと多いことか。

だが、そんな根拠のない話を鵜呑みのしてしまう投資家がたくさんいることも事実なのだ。

人は「数字と肩書き」に弱いものである

あなたは、投資セミナーや運用会社の報告会に参加した経験はあるだろうか。

当然のことだが、講師は自己紹介から始める。

ほぼ例外なく講師は自分のプロフィールを紹介することから始める。どこの大学を卒業したか(東京大学と言うだけで多くの人は講師を信用してしまう)、どんな部署のどんなポジションなのか……。

たとえば運用会社でファンドマネージャーをつとめている人のセミナーであれば、必ず出てくるのがどれくらいの額の運用を行っているかという話だ。

「私は◯◯◯億円の資金を運用しています」

冒頭でそんな話を聞かされると、多くの人はそれだけで相手を一方的に信じ込んでしまいがちだ。日本人はファンドマネージャーという言葉に異常なまでに弱いのはなぜだろう? それは一般の投資家だけではない。銀行員もこの言葉にめっぽう弱い。

私も仕事としてお客様向けにセミナーの講師を務めることがある。だからこそよく分かる。最初の「つかみ」として、肩書きと数字は外せないのだ。

ちなみに、私は昨年1年間で24億6800万円の金融商品を販売し、9200万円の手数料収入を稼いでいる。一般の人はこの数字が多いのか少ないのか判断する基準がない。

だが、24億円という数字は普通の人間では手にすることができない大きな額であるということから、「なんとなくすごい」という漠然としたイメージを抱くお客様が多いようだ。

もちろん、私ひとりの能力でこれだけの金融商品を販売できるわけではない。銀行という看板、信用があるからこそであり、サポートしてくれるスタッフがいるからこその数字である。私は決してウソをついているわけではないが、話の導入部分として自分を大きく見せるというのは必要悪なのだ。

ファンドマネージャーも「サラリーマン」なのだ

投資信託などを運用するファンドマネージャーなら、扱う金額は当然ながらさらに大きくなる。◯◯◯億円を運用していると聞かされると、すごい人なのだと思ってしまいがちだ。しかし、彼の力量でそれだけの資金を集めたわけではない。

日本の投信会社や証券会社に限って言うなら、彼らの多くは実はサラリーマンだ。米国のヘッジファンドや金融機関のように能力ひとつで巨額の報酬を得ている人は、ごく一部の限られた世界の話にすぎない。少なくとも個人投資家が購入する投資信託を運用しているファンドマネージャーについては、彼らもサラリーマンだと考えてまず間違いはない。

ファンドマネージャーには医師や弁護士のような資格は必要ない。実は学歴もあまり関係ない。我々と同じサラリーマンであり、多少の特性は考慮されるものの、人事異動で現在の立場にいるにすぎない人が大半であると考えてよい。彼らが巨額の資金を運用しているからと行って、ズバ抜けて高い能力を持っているわけではないのだ。

確かに彼らは優秀だ。しかし日本では、投信会社の多くは証券会社や生命保険会社、銀行といった大手金融機関の子会社であり、社長をはじめ幹部は親会社からやってくる。ファンドマネージャーの多くは彼らの意向を受けて運用を行っていることは想像に難くない。

忘れてはならないのは、ファンドマネージャーの多くは必ずしも運用に優れているわけではなく、運用報告会などで顧客に好印象を与えることができるセールスマンの側面を持ち合わせていることだ。