加害者との対話「危険だけど、やってよかった」

――X氏との対話が続く第11話12話の緊張感は、すごかったです。加害者との対話は、ペス山さんにとってどんな経験だったのでしょうか。

ペス山:「修復的司法」っていう方法によって、被害者と加害者が冷静に話し合いをすることで、セラピー効果があったり、解決に向けて前向きに話が進むこともあるそうなんですが、カウンセラーさんに「それをあなたはまさにここでやりましたよね」と言われて。

 この回を公開した時に、ツイッターとかでもまあまあ反響があって、だいたい「加害者の言葉ひとつで被害者は傷ついたりして危ない」とか「納得できるはずがないのに加害者に対して言葉を延々と求め続けるっていう自傷行為にも見える」「心配になる」と、私自身を心配する意見がめちゃくちゃ多くて、そう見えるんだなーと。だいぶ歯がゆいというか、そう見える風にしか描けなかったか!とちょっと悔しかったですんですけど、私にとっては自傷的な意味は全然なくて、ただただ役に立った経験でした。

 セクハラがあった7年前の私の記憶の中では、X氏はそんなに極悪人でもない、ただの虚勢をはっている気の小っちゃいおじさんだから、話そうと思えば話せるだろうみたいな信頼感みたいのが逆にあって。話せるってことでやっぱり普通なんだなって確認できてよかったし、普通の人がこういうことを平気で人にしてしまう社会だったんだなと改めて確認できてよかったと。危険なんですけど、私はやってよかったと思ってます。

「黙らない」って言うのって、本当に勇気がいること

「“黙らない”ことって本当に勇気がいること」セクハラ経験を描く漫画作者に聞く
(画像=『女子SPA!』より引用)

――コメント欄に「許さないでくれて本当によかった」という意見もありました。本来危険なことなのかもしれませんが、我慢したり泣き寝入りするだけではなく、こういう選択肢もあるのだと示せたことに意味があるのでは。

ペス山:自分が、つらいことを直視することで癒されるタイプだと自覚がある人は、やってみていいと思います。

 そもそも向いているタイプと向いてないタイプがいると思うんですが、心の傷に徹底的に向き合う準備がその人の中でできてるかどうかがすごく重要だと思います。誰にでも勧められる方法ではないですけど、許さなくてよかった!と心の底から思える人は、直視できるタイプの人だと思います。

――編集部で「X氏と仲良くピースしてる写真を載せたらどうか」という意見が出たそうですが、それを作品の中に描いたのは勇気がいることだったのではないでしょうか。

ペス山:(担当編集のチル林さんが)一緒に働いてる方のことを描くの気が引けたんですが、でもこれは要るだろうと思って、すみません描いてしまいました。

チル林:私がネームを読んでワ~ッとなった(頭を抱えるしぐさ)唯一な部分な気がする(笑)。この作品は連載開始当初こそ編集部内でもいろいろな意見が出たのですが、連載を重ねるうちにペス山さんの漫画の面白さが周囲の人たちを納得させてくれたという感じです。

――第12話ラストの「(X氏の会社の)社則が壁から剥がれ落ちないように、黙らないでいよう」というセリフ、かっこよかったです。

ペス山:「黙らない」って言うのって、本当に勇気がいることなので、同じように苦しんでる人の背中を押せたらなと…。