良かれとおもったことが相手にとって不快となる。私たちが振りかざす善意がときには誰かにとっての悪意になる……。価値観の異なる人たちと触れ合う際には、そういった可能性が非常に高くなります。だからこそ、私たちには察する力ではなく、相手と対話する力が求められているのではないでしょうか。
みなさんは東南アジア系のエアラインにご搭乗になったことはありますか?
私はセブ島に行った際にフィリピン航空に乗ったり、シンガポール航空やタイ航空に乗ったことがあるのですが、いつもびっくりするのがエアコンの風の強さ。
エアコンの吹き出し口から白い煙が見えるほど、もの凄い勢いで冷房をガンガンにかけて、機内をキンキンに冷やしてくれているのに驚きます(一度経験してからは、必ず機内用のマイブランケットを持ち込みます!)。
でも、これって客室乗務員が暑がりだからとか、エアコンの調子が悪いからとかそのような理由ではなく、彼女たちにとっての立派なおもてなしなのです。
■相手の気持ちを察するのが「おもてなしの心」
先日、元エジプト航空で客室乗務員をされていた、現在は小笠原流礼法の師範でもあるマナーコンサルタントの小林恵美子(こばやし・えみこ)さんからお話を伺い、「おもてなし」について学び、考える機会がありましたので、そちらにについて書いてみようと思います。
私は日系のエアラインで働いておりましたので、メインのお客様は日本人のお客様。国際線が増え、海外のお客様が多くなったと言ってもやはり日本人の方が多いですし、一緒に飛ぶクルーもほとんどが日本人。
同じ言語を話し、同じ文化を持つ日本人同士であっても、それぞれの育った環境や価値観で、相手の気持ちを完全に察するのはとても難しいと日頃から感じながら乗務をしておりました。
でも小林さんが乗務されていたエジプト航空では、中東系のお客様など、あまり日本では関わることのない文化をお持ちのお客様もたくさん搭乗されていました。まったく価値観が異なる人へのサービスをご提供し、機内の多数のお客様にご満足いただくこと、それはきっと難しいこと。
例えば、私が日系のエアラインでは、「フライトでタービュランス(乱気流)による揺れが予測される場合は、お飲物は6分目まで」「パソコンやノートを出してお仕事をされているお客様にはお飲物に蓋を付ける」などの指導がされます。
でも小林さんが乗務されていたエジプト航空では、このようなことが……。
揺れる可能性のある機内で、熱い飲み物をなみなみ注ぐのは危険。そう配慮した彼女は、少なめにいれたドリンクをサウジアラビアのお客様に手渡しました。しかし、そのお客様は一気に飲み干して、「もう一杯くれ!」と手を差し出します。
「なんでこんなに少ししかくれないんだよ! ケチ!」といった表情を顔に浮かべながら……。
■価値観の異なる方に、よりご満足いただける「おもてなしの心」を伝えるために
おもてなしで難しいなと感じることは、それぞれの文化や価値観によって、「嬉しい」と思うこと、「嫌だ」と思うことなどその基準が異なる点。でも、そこが面白いところでもあるのです。
「揺れる可能性がございますので、少なめに注いています。お代わりはいつでも仰ってくださいね」
このような一言を付け加えるだけで、相手の感じ方も異なっていたのかもしれません。
相手を完璧に理解することは難しいかもしれませんが、一つひとつの経験を通して、学び、それを生かし、より良いおもてなしの心をお伝えすることはできるようになるはず。
日本人の私たちは空気を読むスキルが非常に磨かれています。聞き手が相手の伝えたいことをくみ取ることが必要とされる場面も多いです。
私も「機内ではお客様の気持ちを察し、言われる前にこちらからして差し上げる。それが『感動するサービス』につながります」と指導されました。
しかし、欧米では、そのように相手が空気を読んでくれる風潮はなく、しっかりと相手に伝える責任が話し手にあります。
小さい頃から、この環境で育ち磨かれた私たちの「空気を読み、相手の気持ちを察するスキル」。
得意が故に、「察してあげなくては」と思うことがあるかもしれません。しかし、育った環境が違えば、「嬉しい」「満足」と感じる基準も異なって当たり前。
だからこそ、一人ひとりときちんと対話をする必要があるのです。
自分基準で物事を決めつけず、疑問や不安に感じたら相手にその意図をきちんと尋ねてみるなど、対話していくことで価値観の違いによる誤解も解消されていくはず。
そして、さまざまな経験をすればするほど、そこからの学びがあなたのおもてなしの幅を広げ、スキルを一段と磨いてくれるでしょう。
海外旅行に行って異文化に触れたり、訪日外国人観光客の方とお話をしたり……もっと簡単なところで言えば、自宅で洋画を観たりすることで、今までと違う価値観や視点に触れてるなど、まずは毎日の生活の中から少しずつ意識してみてはいかがでしょうか?
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