担当編集チル林さん「裁判で勝てば解決するような問題ではない」
――第5話で、弁護士さんが「訴訟すれば今なら勝てる」と断言したのは、希望の持てるエピソードでした。しかし、担当編集者のチル林さんは「7年前のペス山さんはほぼ助からなかった」と憤ります。とても印象的なシーンでした。
チル林:ペス山さんは革命家みたいなところがあるから(笑)、弁護士さんの話を聞いて、個人だけじゃなく社会全体の問題として「(社会通念が)変わってるんだったらよかった」という気持ちを持てたんだと思うんですけど、私は何年前のことであっても、法的に罪であろうとなかろうと、(ペス山さんが)苦しい思いをしたことには変わらないよなという気持ちがあったので、ああいう言葉になりました。
もっと細かく言うと、弁護士事務所での取材の帰り道、小学校が近くて下校途中の子たちがたくさん歩いてたんですね。もしこの子たちが今後性犯罪にあって、その後ずっと苦しむことになったらと考えたら怖くて。その時の発言を、ペス山さんがうまく拾ってくださった。裁判で勝てば解決するような問題ではないと、私自身思っています。
「描いてるもののテーマに対して誠実にならなきゃ」コメント欄を承認制に
――前作では「暴力」、今作では「セクハラ」というセンシティブな問題をテーマにされていますが、描く上で何か気をつけていることはありますか。
ペス山:前作では「人を傷つけない」ということを心がけていたんですが、今回は気をつけなきゃことがいっぱいありすぎて…。でもやっぱり、「セカンドレイプみたいな批判がたくさん来たとしても、それに対して日和(ひよ)らない」ということですかね。戦う姿勢みたいなものを常に出していかなきゃいけないな、と思います。
――20年9月、『女の体…』のコメント欄が承認制に移行しました。それ以前はコメントがだいぶ殺伐(さつばつ)としていたようですね。
ペス山:最初のコメント10件くらい読んで、あっこれはメンタルやられちゃう!と思って自分の漫画のページなのにブロックしました(笑)
――読者に断りなく承認制にしてもよかったのに、はっきりと「セカンドレイプは許さない」という姿勢を表明したのが、非常にかっこよかったです。
ペス山:承認制にする時に、声明を出すか出さないかでチル林さんと相談して、やっぱり絶対出したいと思って。自分がもしこの漫画を読んでいたら、その表明によってきっと勇気をもらえると思うし、過去の自分への戒めにもなる。描いてるもののテーマに対して、誠実にならなきゃ、と。
チル林:承認制についてのコメントは、出してよかったと思います。漫画編集者として、15年くらいやってるんですけど、批判でも絶賛でも、基本的にどんな意見もありがたいんです。だから、承認制にするしないのラインですごく悩んだ時期があって。でも、本当に心ないコメントが多くて、周りからも「あのコメント欄ひどいんじゃない?」って言われたり。
「ほんとにつらくなったら、コメント欄を閉じたり承認制にしたりしましょう」と提案したら、ペス山さんに「つらいかどうかっていうより、漫画の内容として絶対に許さないっていう姿勢の方がいいと思う」って言われて、正しい判断だなと思えたんですよね。
ペス山:漫画の中で、いくら自分の意識が変わりました!って言ってても、(セカンドレイプに対して)なあなあな感じだったら「ほんとか?」ってなっちゃうと思うので。
チル林:実は、編集部にはもともとコメント欄を承認制にするシステムがなくて、上司にプレゼンする必要があったんです。そのシステムを導入するのは、ある程度のお金がかかることなので、「コメント欄を無くせばいいんじゃないか」「著者が見なければいいんじゃないか」という意見ももちろんあったんですが、「これは編集部とペス山さんのスタンスの表明だから、絶対に承認制にして欲しい」と言ったら、上司がすぐOKと言ってくれて。いい職場だなって(笑) わかってもらえなかったらどうしようという気持ちもあったんですが、本当にやってよかったと思います。
ペス山:(チル林さんの)めっちゃいい声明文でしたよね。感動的でした。
チル林:不安だったので、事前に専門家含めかなりいろんな方に見てもらいました(笑) 発表することによって、さらに炎上したり悪い方向に影響してしまうこともあるので。
ペス山:戦うと決めたからには1ミリも間違えちゃいけないって、なかなか理不尽だし厳しい時代ですよね。他の人が一通り戦い終わって楽になった後に生まれたらよかったな(笑)