日本代表でのオリンピック出場は当然?

 先日開幕したばかりの東京五輪に、大坂選手が米国市民権を放棄して日本代表として出場することについては、日米両国で疑問を持っている人が多いようですが、その答えも本作の中でしっかり描かれていました。

 14歳から日本代表としてテニスをプレーしてきた彼女にとって、日本代表でオリンピックに参加することは「唐突でも何でもなかった」そう。

 そのことで「君の黒人性は失われた」と非難する人もいるそうですが、大坂選手は「アフリカ系米国人だけが黒人ではなく、ブラジル国籍の黒人も、日本国籍の黒人だっている」と語り、国籍と人種は別物だという至極もっともなことを理解していない人が多い現状を嘆く場面もありました。

 また、幼い頃から働き詰めだった母を見ていた大坂選手が、テニスを続けてきた理由は「ただ母を幸せにしたい」という気持ちだったと告白。彼女がテニスでトップを目指した原動力は、家族、とりわけ母のためであったことを明かしています。

 日本人としてオリンピックに出場することは、自身の日本ルーツを大切にしたいという気持ちはもちろん、日本生まれの母を喜ばせたいという思いやりの気持ちも強かったのではないでしょうか。

海外メディアは概ね高評価、一部イヤミなツイートも

 本作への海外メディアの評価は良好で、アメリカ最大の映画批評サイト『ロッテントマト Rotten Tomatoes』では評論家の96%が満足しているという結果に。

『女子SPA!』より引用
(画像=『女子SPA!』より引用)

 米公共ラジオ局NPRのエリック・デガンズ氏は「テニス界のスーパースターの個人的な旅を、人種、ナショナリズム、公民権、メディア、消費されるアスリートの問題と結び付けた素晴らしい作品」、豪日刊紙『ジ・エイジThe Age』のカール・クイン氏も「プロアスリートの人生に切り込んだ、珍しく真実味のあるドキュメンタリー」と絶賛しています。

しかし中には、大坂選手のドキュメンタリーシリーズ出演や、オリンピックを前に各国の有名雑誌の表紙を飾ったことを良く思わないジャーナリストも。

 アメリカの保守派コメンテイターのクレイ・トラヴィスと、元NBCニュースキャスターのメーガン・ケリーは、「内向的だからとメディアの取材を断っておいて、ドキュメンタリーショーを配信し、バービー人形の新作を発売、おまけに水着姿で雑誌の表紙を飾るなんて!」「『ヴォーグ Vogue』と『タイムTime』の表紙(とインタビュー記事)も忘れずにね」と、それぞれツイッターで大坂選手を攻撃しました。

7月25日現在、一般視聴者からの『大坂なおみ』の評価は、イマイチの満足度37%。『Rotten Tomatoes』にレビューを投稿しているのは19人のみで、そのほとんどがクレイとメーガンのように「メディアは避けるのに、密着カメラはOKっておかしくない?」という意見を持っているようです。

 オリンピックの女子シングルス3回戦で、惜しくも敗退してしまった大坂選手。賛否両論ある『大坂なおみ』ですが、彼女の素顔を知りたい人には必見。オリンピックをやっている今だからそこ観てほしいドキュメンタリー作品です。

Sources:「Rotten Tomatoes」「NPR」「The Age」

<文/橘エコ> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 橘エコ アメリカ在住のアラフォー。 出版社勤務を経て、2004年に渡米。ゴシップ情報やアメリカ現地の様子を定点観測してはその実情を発信中。