結婚がキャリアに与える影響②:昇進

(写真=fizkes/Shutterstock.com)

次に、より高い職業地位へ移る「管理職への移動」の傾向を見てみましょう。論文『結婚は職業キャリアにいかなる影響を与えるのか?』では、同じ企業内で上位職に移動する「昇進」だけでなく、転職などにより管理職の地位に就くことも、「管理職への移動」として分析しています。

結婚から6年経つと女性は昇進しにくくなる

前段で見たように、結婚は直前から女性に無業への移動を起こしましたが、その効果は結婚から6年経つと収まりました。しかし今度は、管理職への移動に影響を見せ始めます。女性は結婚6年後以降に、管理職への移動がしにくくなるのです。仕事と家庭の両立の難しさが、既婚女性を管理職へのアクセスにおいて不利な立場に置くものと解釈できます。

一方の男性では、結婚はむしろ管理職への移動を促進するものとして働いています。しかし、結婚から時間が経つほど管理職に移動する効果が強まるといった傾向は見られません。ですので、男性のキャリアと結婚の関係は、結婚後のキャリアの積み重ねの結果というよりも、雇用主の「父親になったのだから」という配慮からくるものと見ることができます。

女性の昇進は「長時間労働の承諾」と引き換え

では、女性の昇進を可能にするものは何なのでしょうか?別の研究成果を見てみましょう。

『働き方の男女不平等-理論と実証分析』(山口一男、日本経済新聞出版社、2017年)は、日本において女性の経済分野での活躍が遅々として進まない実態を分析している書籍です。管理職割合や賃金、雇用形態などに大きな男女格差が残る現状について、何がそれを引き起こしているのかを統計分析しています。

その中の一章に、ホワイトカラー正社員の管理職割合の男女格差を決定づける要因について分析を行ったものがあります。それによると、もっとも大きく男女の昇進を分けるものは労働時間であることが分かりました。

これは、必ずしも「男性の方が長時間働いているから出世するのだ」ということを意味しません。週49時間以上働いている人たちでは管理職割合の男女差が小さくなるのですが、週48時間以下の人たちでは、男性管理職の割合がずっと高くなるからです。

つまり、より短時間の労働下では、男性の方が管理職になりやすいのです。女性は男性以上に長時間働かないと管理職になれない、または管理職になったら男性以上に長時間働かなければならないという事実が浮かび上がります。

また、末子が6歳以上になると、女性の管理職割合はますます減ることが分かりました。幼児期を過ぎれば手がかからなくなるような印象がありますが、管理職という立場から見ると、いっそう育児と仕事の両立が困難になることが示唆されます。

女性の昇進に影響する「両立支援」と「男性の育児」

前出の報告書『育児・介護と職業キャリア』も、長時間労働が女性の昇進に及ぼす影響を指摘しています。

女性の管理職割合を高めるには、まずそもそもの女性正社員を増やすこと、そして女性が基幹的業務に携わる経験を増やすことです。長時間労働や残業、転勤などが前提となっている職場では、それができない女性社員を基幹的業務から排除することになってしまうので、女性のキャリアアップは見込めません。これは、女性だけが長時間労働を免除されれば解決するということではなく、職場全体で長時間労働を克服しないと女性の活躍は難しい、ということを意味しています。

また、夫が交代制やシフト制で働いている場合、妻側が常勤・フルタイムで働きにくい現状も分かっています。同時に、男性の育児休業、特に1カ月以上の取得が妻のフルタイム就業や男性自身の労働時間短縮につながる可能性も示唆されました。

つまり、育児などの両立支援を男性も十分に活用でき、男女ともに働きやすい職場であってこそ、結婚が女性のキャリアに及ぼすマイナス影響を除くことができるのです。