神社の建物に施された彫刻を「宮彫り(みやぼり)」と言います。この宮彫り鑑賞が、神社の楽しみ方の一つとしてツアーが組まれるなど、最近とっても熱いんです。今回ご紹介する叶神社は、その宮彫りの代表的な神社と言われ、小さな敷地に迫力ある宮彫りが詰まっています。また、叶神社はその名の通り、願いが「叶う」神社。古来より全国で人気の八幡神を祀り、ある特殊な理由からそのパワーをダブルで頂ける場所なんです。
どんな神様がいるの?
叶神社は、八幡神(やはたのかみ)を祭神とします。日本の神様は八百万の神様といわれるほど、とにかく沢山の神様がいます。古来より日本人は、自分のお気に入りの神様を信仰してきましたが、その中でも特別に大きな派閥が、八幡神信仰です。
八百万と表現されるほど沢山の神様メンバーがいる中で、今で言えば推しメンを探して信仰していました。なんだか古来から現代まで日本人の趣向が変わらない感じで面白いですね。日本には、八幡系の神社は4万近くあるとも言われています。
そんな八幡神は、昔から全国で愛されている神様ですから、その時代時代の人々の願いによって神徳が変化してきました。
最初は文化・工芸の神様として、戦いが多い時代は武神として、そして平和な時代になってからは、日常生活に根差した様々なお願いを成就してくれる神様として変化しました。
今回ご紹介する叶神社は、源氏に由来する神社です。武神として八幡神を推しまくったのが源氏で、源氏の守護神として祀ったことから、武家や民衆の注目が集まり、いっきに全国に神社が拡大したのです。
西叶神社
源氏は平氏と長い間戦い続けました。源氏の勢力が弱まっているときに、源氏再興を願って建てられたのが叶神社です。
後に、叶神社のある神奈川県浦賀の地域は、行政により東西にわけられました。叶神社は西側にあったので、東側の人々が「こっちにも建てたい!」となり、元々の叶神社は「西叶神社」、新しく建てられた神社を「東叶神社」として信仰することになったのです。
ここだけの狛犬
元々一つの神社が二つに分かれたことで、他の神社にはないこだわりがあるんです。それがよく表れたのが狛犬です。一般的に、向かって右側の狛犬が、口を開いた阿形(あぎょう)、左側が口を閉じた吽形(うんぎょう)と置かれています。阿(あ)は口を開いて最初にでる音、吽(うん)は、口を閉じて最後に出す音とされ、それぞれ宇宙の始まりと終わりを表しています。そのため、口を開いた狛犬と閉じた狛犬は必ず1セットで配置されるもの。
ところが、西叶神社はというと・・・?
西叶神社には、口を大きく開けた阿形しかないんです。これだと宇宙の終わりが表現できませんよね。これと対をなす狛犬は東叶神社にあるんです。後ほどご紹介しましょう。
宮彫りで人気急上昇の神社
西側の建物は、戦の世に建てられたことから、力強く、勢いのある装飾が好まれて施されています。実はこうした神社の彫刻「宮彫り」を楽しむ人々からも、この西叶神社は大人気。非公開の個所含め、200点以上の宮彫りが施されています。その中でも代表的なものをちょっとだけご紹介します。
向拝の龍
まず最初に目を引くのは、本殿上部にある向拝の龍。いかがですか?「これから世の中、源氏がとってやるんだからな!」という勢いを見事に彫刻で表現したかのような迫力です。
多くの神社でこのような龍の彫り物が見られますが、少し横を向いていたり、1匹だけだったりと表現の仕方は様々。ここ西叶神社では、真ん中の龍が、真正面から威嚇するように世を見つめています。口も少し開き気味で、争いの中に飛び込むための力を、ぎゅっと体にためているようですね。
この勇ましさが他の神社の龍に比べてカッコいい!!と大人気。この日もカメラを携えた愛好家が、この宮彫りお目当てに多数訪れていました。
さらにこの龍の奥をのぞき込んでみてください。屋根裏はこうなっています。
いかがですか。通常こうした格子に円がある装飾は花や鳥など、比較的穏やかな印象のものを彫ることが多いのですが、ここはギッシリ龍です。龍の養殖場か?と思うほどのギッシリ感で、沢山の龍が控えてるんだぞ、という戦いにかける気合が伝わってくるようです。
力士彫刻像
そして建物の両サイドにある力士彫刻像。この力士は片手を腿につき、もう一方の手で、建物を支えています。
こちらも非常に力強いですね。戦の時代は、多くの神社仏閣が戦いによって壊されてきました。そうした中、この力士で何者にも潰されないぞという願いを込めたのかもしれませんね。
鏝絵
宮彫りではないですが、ここに来たら絶対に見て頂きたいのが「鏝絵(こてえ)」です。社務所付近に施されたレリーフです。
鏝(こて)とは、セメントや漆喰(しつくい)を塗ったり、平らにしたりする道具です。よく左官職人さんが、アイロンを平たくしたような道具で、土壁なんかをペタペタしているのを見たことがありませんか?あの道具です。
このレリーフは、その鏝で作られたもの。人物の指先など、本当に鏝で作ったの?とびっくりするような繊細さです。この鏝絵は浦賀特有の芸術品。この地に来たら絶対に見ないともったいないですよ。
現代では縁結びでも大人気
彫刻によって、ものものしい、どちらかと言えば男性的な気配のする神社ですが、近年は女子の参拝者が多いんです。
というのもの、東西でお守りのパーツを揃えて、自分で縁結びのお守りを完成させる、という東西にわかれた特徴を上手く生かしたお守りがあるんです。先にご紹介した狛犬と通じるものがありますね。
この日も、社務所にて、「どの色がいいんでしょうか?」と女性の参拝者が神職の方に訪ねていました。
女性が聞いていたのはこちらの勾玉。水晶、めのう、ひすいの勾玉(500円)です。神職の方曰く、色によってご利益に違いはなく、みんな平等にパワーが込められているのこと。そのご利益とはズバリ縁結び。万能の八幡神によって、現代で最も求められるご利益を与えてくれるわけですね。
こちらで授与されるのは勾玉だけ。もう1つのパーツは東叶神社で頂くことができます。それでは東叶神社へLet’s go!