6月19日からユーロスペースほかで公開されるドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』(英題『You Decide』)。建築家でトランスジェンダーであるサリー楓さんの姿を追ったこの作品では、彼女の日常をはじめ、心の葛藤、両親や姉との関係などがリアルに収められています。
社会において多様性や“自分らしさ”が求められるなか、女性として、建築家として今、どのようなことを考えているのか。サリー楓さんに話を聞きました。
私たちの日常がいかに普通であるかを知ってもらいたかった
――まずは本作の英題である「You Decide(あなたが決める)」について聞かせてください。
自分がどういうふうに生きるか、自分のあり方を含めて、“自分らしさ”というものは自分でDecide(決める)するものだと私は思っています。
一方で、自分が心地よいジェンダーや本当にやりたい格好で生活したい、そう思いながらできない人もいます。それはなぜかというと、やはり世間がそうさせてくれないからだと思うんです。
たとえば、今、私は女性として会社で働いていて、周りの人たちも女性として扱ってくれていますが、それは周りの方々が私を女性として生活させてくれているのであって、私はそれに頼っている部分がある。 私が自分のことを女性だと思うことも大切ですが、自分らしくいられる環境を私だけがつくるのではなく、周りも一緒になってつくっていく必要がある、そのためにはこの映画を見たあなたがどういう未来をつくるのか一緒に決めて欲しい、という私の思いが込められているのだと思います。
――カメラの前に自分をさらけ出すことはかなり覚悟がいったのでは?
やっぱり初めての経験だったので緊張しました。ただ、なぜわざわざドキュメンタリー映画を撮ることに応じたかというと、撮り始めた頃は学生だったのですが、まだその頃は芸能界や夜の世界のイメージが強くて、トランスジェンダーはちょっと遠い世界の存在だと思われていたと思います。
そんな中で、私たちの日常がいかに普通であるかを知ってもらいたかったし、私自身、学生生活や就職活動でカミングアウトするときに大変な思いをしたので、ここで自分の生の声を世間に届けないと10年後、20年後も同じ困難を感じる当事者の方がきっといると思って出演することにしました。
私が女性であるかどうかも映画を観た後に決めてもらって構いません
――映画を見て、私たちは男らしさや女らしさなど、“○○らしさ”という言葉に縛られすぎているのではないかと感じました。その上で、この作品を観た人が少しでも自分に置き換えることで相手に対する理解が深まると思いました。
私が女性であるかどうかも、この映画を観た後に決めてもらって構いません。あなたの目に私がどう映ったのか。その結果「いや、男じゃん」とか「トランスジェンダーと女性は別なのでは?」と思っても、それはそれで一つの感想でいいと思うんです。
今って“多様性”が肯定的な意味合いで使われていると思いますが、「人と違っていい」という考え方が「人と違う方がいい」という考え方にまで発展しているように私は感じていて。普通でいたい人、みんなと同じであることが心地よい人、多様性のなかに心地よさを発見できない人もいるはずだと思うんです。