投資家は常に合理的な判断で行動しているわけではない。銀行の金融商品販売に携わる私は、多くのお客様が非合理的な投資行動をされていることを知っている。その最たるものが、運用状況が悪化している投資信託に対する対応だ。
「思考停止」で投資信託を10年持ち続ける人がいる
多くのファイナンシャルプランナーやマネー誌が「損切りの必要性」を訴える。だが、たとえ損切りの重要性を頭で理解していても、実践できない人は実に多い。
「せっかく投資したのだから、ここで損切りするのはもったいない」という気持ちが損切りの決断を鈍らせるのだろう。投資における心理的ワナ、いわゆる「サンクコスト」の呪縛に多くの人がとらわれがちだ。
ところが、販売の現場で実際に多くのお客様の運用成績を見ていると、これが必ずしも悪い結果に結びついていない事実に出くわすことがある。
私が勤務する銀行では、10年近くも同じ投資信託を保有するお客様がたくさんいる。その多くが、リーマンショック以前に「分配金」に魅力を感じ投資信託を始めた人たちだ。案の定、恐ろしいほどの含み損を抱え込んでしまい、多くの人が思考停止に陥った。その結果、10年近くも手つかずの状態が続いている。
最近ではそのお客様の中に、含み損が「含み益」に変わった人がいる。この間、定期預金に預けていたと仮定しても、それ以上の利益を得ているお客様は少なくない。
リーマンショックに絶望し、底値で投げ売りした投資家と、損切りできずに思考停止に陥った投資家とでは、一体どちらが良かったのだろうか?
損切りしないほうが「もったいない」
損切りせずに保有し続けていたほうが賢明ではないかーーそう考える読者もいるかも知れない。
では、銀行員は「保有している投資信託が下がったなら、10年でも20年でも持ち続けましょう。いつか利益を出せる可能性があります」とセールスしても良いのだろうか?
答えは「ノー」である。いくら何でもこれは無責任だ。
私は基本的に損切りこそ積極的にすべきであると考える。リーマンショックで痛手を受けた先進国の債券を損切りし、新興国に投資していれば、より効率的に損失を取り戻せていただろう。
多くの人が損切りするのはもったいないと考えがちだが、実際は「損切りしないほうがもったいない」のだ。とはいえ、やみくもに損切りすれば良いわけではない。
大切なのは、購入時に「どのような状況になったら」損切りするか決めておくことである。運用損を抱えてしまってから損切りを決断するのは容易ではない。なぜなら、「冷静な判断」ができないからだ。