連載第2回は、前回の最後で触れた「資本市場の取引対象である、有価証券・通貨などの金融商品がFinTechによりどう変わるのか」という問題の、「通貨」を取り上げる。

「通貨」とFinTechといえば、BitCoinを始めとする仮想通貨(暗号通貨)に触れざるを得ないが、制度面を中心に取り上げる本連載では、5月25日に改正案が成立した「資金決済法」について説明することとしたい。

資金決済法改正でどこがどう変わったのか

資金決済法とは、正式名称を「資金決済に関する法律」といい、2009年6月に制定された。

改正前の第1条 (目的)には(太字部筆者注。以下同)

「この法律は、資金決済に関するサービスの適切な実施を確保し、その利用者等を保護するとともに、当該サービスの提供の促進を図るため、前払式支払手段(商品券、プリペイドカードなど)の発行、銀行等以外の者が行う為替取引(資金移動業)及び銀行等の間で生じた為替取引に係る債権債務の清算(資金清算業)について、登録その他の必要な措置を講じ、もって資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資することを目的とする」

と定められていたのが、改正後は「~銀行等以外の者が行う為替取引(資金移動業)、仮想通貨の交換等(仮想通貨交換業)及び~」と「仮想通貨交換業」を業として認め、登録その他の必要な措置を講じることとされた。

今回の法改正の背景には、近時登場したビットコインなどの仮想通貨により、マネーロンダリング・テロ資金供与が容易になっているとの各国の問題意識がある。昨年6月のG7エルマウ・サミット首脳宣言でも仮想通貨その他の新たな支払手段について適切な規制を行う旨が明示され、日本も対応したものである。加えて、まだ記憶に新しいMTGOXの破たんを受け、仮想通貨の取引業者に対して適切な規制を行う要請もあった。

そもそも「通貨」とは? 資金決済法改正では通貨の定義は変わっていない

そもそも通貨とは、「価値保存機能」「価値尺度機能」「支払(決済)機能」を有するものと考えられている。

日本の法律では「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第2条第3項で「通貨とは、貨幣(コイン)及び日本銀行法第46条第1項 の規定により日本銀行が発行する銀行券(お札)をいう。」と定めており、日本の法律上は「通貨」の種類は、「コイン」と「お札」の2種類のみである。

今回の資金決済法の改正では、この「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」は何も変わっていないので、「通貨」の定義は変更されておらず、結果として今回の改正で「仮想通貨」が「通貨」になった訳ではない。

新たに定義された「仮想通貨」とは?

「仮想通貨」とは、改正資金決済法の中で新しく定義された概念であり、改正資金決済法にある仮想通貨の要件を解説すると次の通りである。

(1) 物品の購入・サービス利用等に際し、代価の弁済のために使用できる
  (前述の支払(決済)機能を有していないものは、仮想通貨でない)

(2) 不特定多数の者に対して使用することができる
  (Tポイント、楽天ポイントなどの、特定の加盟店でしか使えないポイント、マイレージ、企業内コインなどは、仮想通貨でない)

 (3) 不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる
  (特定の者のみで売買できる場合は、仮想通貨でない)

(4) 電子機器その他の物に電子的方法により記録されている財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
  (移転が想定されていないものは、仮想通貨でない)

(5) 財産的価値からは、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産が除かれる
  (通貨にリンクしたもの=○○円、△△ドルなど、ある通貨の単位を以て、その価値が表示されるものは、「財産的価値」でない。従って仮想通貨でない)

第2号は、第1号で定めるものと相互の「交換」を行うことができるものも、仮想通貨と認めている。