2)3倍レバレッジ型日本株投信

続いて、A証券の買付金額第4位にランクしていたのは、「3倍レバレッジ型日本株投信」だった。この商品は、株価指数先物取引+株式の合計のポジションを使って投資額の約3倍に調整し、その株式市場の値動きの3倍程度を目指すという商品だ。てこの原理を使うことから、レバレッジ型とも称される。このレバレッジ型は長期運用には向かない。開始時期の基準から長期になるにつれて、3倍パフォーマンスとかけ離れてしまう現象が起こりやすい。この商品も上記と同様にコスト分解してみた。

購入時手数料:2.16%
信託報酬:1.0044%
換金時・スイッチング時:0.54%

合計で約3.7044%と、先述の投信よりはずっと低コストだ。しかしこれも代替にETFを使えば(2倍連動ではあるが)、販売時手数料ゼロ、信託報酬0.75%程度となり大幅なコスト削減が可能である。

ここではこの商品に投資して失敗した実例から、別の観点の問題点を見ていこう。

3倍レバレッジ型に投資した退職金運用

「とんでもない事になってしまった」と元気の無い声の主は語った。聞けば大手証券会社に勧められ、日経平均の動きの3倍の動きをする投資信託に投資を行い、数千万円の目減りをしているということだった。まさに上記の投信である。

この例では、残念なことが2つある。(ⅰ)老後を支える大事な退職金の運用であることを、この大手証券会社の営業員が考えていないことに気づかなかったのか(ⅱ)なぜその証券会社で、その担当者を信じて運用しようと決断してしまったのか

残念な投資家Aさんは長年上場会社に勤務、役員にまで登り詰めた人物。退職金の運用は将来の生活防衛を目的とした低リスク運用で良かったと思う。しかし、なぜギャンブル的な「3倍レバレッジ型」に投資し、大事な財産を大幅に減らす結果になってしまったのだろうか。

運用失敗の原因8つのポイント

筆者が考える失敗の原因や、あるべき姿は以下の8つだ。

1.営業員は自分のノルマ達成のために、手数料の高い商品を売ることや、商品が入れ替わって手数料を得る機会が大事で、お客様の生活設計を行うという大事なミッションを放棄してしまった。

2.証券会社の上司や組織としての牽制が効いていなかった。

証券会社は、手数料が儲かる商品でなくとも「退職金の運用に相応しいリスク」のものを伝達すべきで、営業員の3倍型集中投資提案に対して警鐘を鳴らすべきであった。

3.投資家本人のリスク許容度を担当者が考えることがなかった。

4.投資家本人のリスク許容度を投資家自身が考えるべきだった。

5.退職金というまとまった資金が通帳に入り、高揚感で冷静さを欠いていた。

6.上場企業の役員に登り詰めた経歴があったことで、「自分が選ぶ商品には間違いない」と投資にも自信過剰になってしまった。

7.ヒトを見ずに大企業だから安心と考え、この営業員が信頼に足ると誤った判断をした。

8.対面証券があえて同社にとって低採算のETFを提案することは期待できず、収益の大きな商品が提案の中心であろうことを理解していなかった。

商品特性に加え、リスク許容度とコスト判断が重要

カタログ的な商品という切り口で「仕組み債はダメ」「分配型投信はダメ」といった、○×を付ける一覧表が良くメディアに登場している。しかし、この「3倍レバレッジ」という商品がダメだったと言えるのだろうか。

あえて今回の失敗事例に○×を付けるならば、売り手の営業員が顧客に親身でないことが一番の問題だ。「投資家ニーズ×(ニーズにあっていない)、投資家のリスク許容度×(退職金)、長期運用×(コスト高)」という結果だろう。

商品の良し悪しの判断は確かに重要だ。しかし、加えて、投資家自身が自分を守るために必要な金融知識「金融ケイパビリティ」を持つことが重要だ。それが十分に備わっていない投資家は、金融機関の利益誘導のための「商品の売り手」とは一線を画すという知恵を持つべきだ。

文・安東隆司(CFPRファイナンシャル・プランナー)/ZUU online

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