ケガや病気、会社の倒産、老後資金が底を突く……人生に潜むリスクにサラリーマンはどう立ち向かうべきなのでしょうか。「最低限の対策はすでに済んでいるけれど、これだけで十分ではない」という人も多いはずです。リスク対策をさらに万全なものにするために有効な、サラリーマンという立場を利用した「あること」をこの記事では紹介します。

厚生年金は「長生きリスク」と「インフレ対策」ともに優れた老後資金対策

正社員として給与収入を得ている人は、基本的にみな厚生年金に加入しています。「年金は将来もらえなくなるかもしれない」「受取額がかなり減るのでは?」と不安になる人もいるかもしれませんが、厚生年金は資産運用ではなくリスクに備える保険です。特に「長生きリスク」と「インフレリスク」への対策として効果があります。

国民年金と厚生年金の給付は、生涯にわたって受け続けることが可能です。「人生100年」といわれる時代でこれほど長生きリスクに対応した金融商品は他になく、長生きリスクとインフレリスクの2つに同時に対応できる保険はこれだけだといってよいでしょう。

例えば、民間の生命保険にも生涯保険給付金を受け取れる「トンチン型保険」があります。トンチン型保険とはトンチン年金ともいわれており長生きするほど多額の保険金を受け取ることができる保険商品のことです。言葉の由来は17世紀にイタリアの銀行家であるロレンツィオ・トンティが考案したことからつけられたといわれています。しかしトンチン型保険は、基本的に物価が上がるインフレには対応していません。なぜなら物価変動にかかわらず支払われる金額は契約時に決めた保険金額と変わらないからです。

個人事業主は国民年金のみに加入しますが厚生年金に比べて給付額はかなり見劣りします。保障を手厚くしたければ国民年金基金を利用するのが一般的です。これも一生涯支払われるタイプを選択でき、長生きリスクには対応できます。ただしトンチン型保険と同様に物価と連動する仕組みはなくインフレ対策としての効果はありません。厚生年金は人口動態などによって多少の調整はされるものの、基本的に物価に連動するようになっています。

社会保険は現役時代のリスク対策にも優れている

次は現役時代のリスク対策について解説します。正社員が加入する厚生年金や健康保険などのいわゆる社会保険は、自営業者や無職者に比べて非常に手厚いものです。しかし厚生年金の遺族年金や障害年金については、制度を熟知している人は多くありません。遺族厚生年金は加入している人(被保険者)が亡くなったとき生計をともにしていた家族に支払われます。

金額は本人が受け取るはずだった厚生年金のおおむね4分の3です。また加入期間が25年(300ヵ月)未満の人は300ヵ月として計算されます。厚生年金の受給額は加入年数に応じて増える仕組みですが遺族厚生年金には25年分保険料を納めた人と同じだけの最低保証額があるのです。一方「障害厚生年金」は3級以上の障害者認定をされた人に支給されます。2級以上は配偶者がいる人への加算もあり遺族厚生年金と同様に最低25年分以上の保証があることが特徴です。

遺族年金や障害年金の制度は国民年金にもあります。しかし遺族基礎年金は子どもが18歳になるまでの支給であったり障害基礎年金は2級からであったりするなど要件や支給額が異なるだけでなく厚生年金のほうが手厚い保障です。

健康保険は会社によって加入している組合が異なるので一概にはいえませんが特に手厚いのは傷病手当金です。多くの中小企業が加入する協会けんぽの場合、ケガや病気などで長期休業すると4日目から給料の3分の2が支給されます。このような休業の保障は個人事業主が加入する国民健康保険にはありません。さらに業務上のケガや病気に対しては、労災保険の障害(補償)年金や遺族(補償)年金などもあります。

それよりも社会保険で特徴的なのは、雇用保険でしょう。もし会社が倒産しても90~最大360日間、直近の給料の45~80%が受け取れます。健康保険や厚生年金保険、雇用保険の保険料は半分、労災保険は全額が会社負担です。面倒な手続きもなく会社が保険料の半分以上を負担してくれる社会保険は、非常に手厚い保障制度といえるのではないでしょうか。