この「交通費」は対象になるのか?具体例を検証
今回は特に、医療費控除のうち「交通費」について対象となるのかどうかを確認していこう。
まず、患者本人が病院などに通う「公共交通機関の交通費」は医療費控除の対象となる。「本人」と「公共交通機関」がポイントだ。
というのも、たとえ患者本人の通院であっても、自家用車で行き来した場合のガソリン代や駐車場代は対象になりそうなものだが、対象とはならないのだ。
また人間ドックなどの「検査」を受けるための通院についても、交通費は控除の対象にはならない。ただし検査の結果、治療が必要な疾患などが見つかり、治療を受けることになったら「検査」ではなく「診療を受けるため」の通院になるため、控除対象となる。
【参考】国税庁「自家用車で通院する場合のガソリン代等」
子どもの通院に親が付き添ったら場合は?
それでは子どもの通院に親など保護者が付き添った場合はどうなるのだろうか?
国税庁のタックスアンサーによれば、「子供の通院に母親が付き添う場合のように、患者の年齢や病状からみて、患者を一人で通院させることが危険な場合には、患者の通院費のほかに付添人の交通費も医療費控除の対象となる」とのことだ。
しかし、子どもが入院していて母親が見舞いや看護などのために通院する場合は、医療費控除の対象にはならない。
医療費控除の対象となる通院費の考え方としては、「医師等による診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要なものであることが必要であり、患者自身が通院するに際して必要なもの」と定義されているのだ。
【参考】国税庁「患者の世話のための家族の交通費」
急な陣痛でタクシー入院したらどうなる?
それでは、突然の陣痛で、タクシーで入院した場合のタクシー代はどうなるのだろうか?
これについても国税庁がタックスアンサーで回答しており、「医療費の対象となる」という。所得税法施行令第207条には、「次に掲げるものの対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする」とあり、三項に「病院、診療所(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)又は助産所へ収容されるための人的役務の提供」とある。
病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額は、医療費控除の対象となるというのだ。タクシー代について国税庁は「一般的にはそのすべての金額が医療費控除の対象となるわけではない」としながらも、上のケースでは「病状からみて急を要する場合や、電車、バス等の利用ができない場合」と考えられるため、その全額が医療費控除の対象となるとしている。
つまり陣痛が始まった妊婦に限らず、電車やバスなどの公共交通機関での移動が難しい場合は使ったタクシー代は控除の対象になるわけだ。
さらには注釈で、「タクシーの利用を余儀なくされる場合において、そのタクシー代の中に高速道路の利用料金が含まれているときは、その高速道路の利用料金も医療費控除の対象となる」と説明している。
遠隔地で診療を受ける場合はどうする?
たとえば自宅から遠い大学病院で治療を受けることになった場合はどうなのだろうか。
病状からみて近く病院でも治療できる場合は、遠隔地にある病院までの交通費は控除の対象にならない。ただし、遠隔地のその病院でなければ治療ができないという相当の理由がある場合、たとえば主治医の判断があり紹介状がもらえるような場合は、遠隔地であっても交通費は原則として医療費控除の対象となる。
【参考】国税庁「遠隔地の病院において医師の治療を受けるための旅費」
転地療養の住居費は対象になるのか?
遠隔地で診療、治療を受けるケースに類似したものとして、転地療養についてあわせて触れておこう。たとえば子供の療養のため、医師に勧められて海辺の別荘を借りて転地療養をするといった場合、この別荘の賃借料は、医療費控除の対象になるのだろうか。
これは国税庁の見解としては、「医師による診療等を受けるため直接必要な費用にあたらない」との考えから、対象にはならないという。
長期入院中の患者の帰省にかかった費用はどうなる?
次に、長期入院中の患者が、年末年始などに自宅に帰る場合の交通費はどうなるのだろうか。もちろん医師の許可を得ての帰省だが、この場合は医療費控除の対象にはならないという。
入退院や通院のための旅費交通費は対象となるが、帰省は診療の都合ではなく、個人的な都合上によるもののため、対象とはならないという見解のようだ。
【参考】国税庁「長期入院中の者の年末・年始の帰宅旅費」