映画『君の名は。』でヒロイン・宮水三葉役を演じ、一躍人気女優となった上白石萌音さん(22歳)。『ちはやふる』『恋はつづくよどこまでも』など、ヒット作に多数出演し、その活躍は周知の通りだ。
映画、ドラマ、歌、ナレーション……その活動の場は幅広く、どんなジャンルでも実績を残す実力派だが、本人は「どの作品を観ても、『自分、下手だなぁ』って思っちゃうんです」と語る。
たとえ自信がなくとも次々に舞い込んでくる仕事のオファー。「いつも、挑戦ばかりです」と話す上白石さんは、自分の自信のなさにどう向き合っているのだろうか。
恥を捨てて挑んだ、超ハイテンションな役
上白石さんが今回吹き替えにチャレンジした作品は、『ボス・ベイビー』などを手掛けたドリームワークスの最新作『トロールズ ミュージック★パワー』。一度は耳にしたことのあるヒットチューンに合わせて歌って踊る愉快な妖精・トロールたちの冒険を描いた物語だ。
本作では、ウエンツ瑛士さんと上白石さんがダブル主演を務め、二人の絶妙な掛け合いも見どころとなっている。
上白石さん:人間の声の吹き替えをしたことはありましたが、妖精の声を演じるのは初めて。そういう意味では、吹き替え初挑戦の気持ちで臨みましたし、どこまで自分の限界を突破できるのか、というのが今回のテーマでした。
自分のことを「どちらかといえばローテンションだし、頭でっかちなタイプだと思います」と話す上白石さん。一方、ポピーは、ハイテンションに歌い踊る、いわば上白石さんとは真逆のキャラクターだ。
上白石さん:ポピーはとにかくテンションが高いし、気分もコロコロ変わっていきます。さっきまで凹んでいたかと思えば、急にギャグをかましたりするような、浮き沈みの激しいキャラクターなんです。
私自身は気分のアップダウンがあまりなく平坦に生きているタイプなので、ポピーの感情のアップダウンについていくのが難しかったですね。
そんな自分とは真反対のキャラクターの声をどう演じたのか、と聞くと「恥を捨てました」と一言。
上白石さん:人前でテンションを上げるのって、意外に難しいんです。でも、人からどう見られるかを気にして恥ずかしがっていても何も始まらないから、そこは後先考えず、全部さらけ出そうって決めました。
自粛期間に感じた音楽の力
本作では、ポップ、テクノ、ロックなど、異なる音楽のルーツを持つトロールたちの衝突が描かれており、現代社会が抱える課題に通ずるメッセージが込められている。上白石さん自身は、このメッセージをどのように受け止めたのだろうか。
上白石さん:違う声が重なり合うからこそハーモニーは美しいんだ、ということを改めて感じました。違うからこそいい、というのはよく言われることではありますが、物語を通じてトロールたちに言われることで、より強く実感できたんです。
今作のタイトルには、「ミュージック★パワー」という言葉が含まれている。その名の通り、上白石さんは本作を通じて「音楽の力」を強く感じたと話す。
上白石さん:ちょうど自粛期間中にこの作品を家で観たんです。ものすごく元気をもらえましたね。
『Just Sing』という劇中歌では“難しいことは忘れて歌おう、それが今足りていないことだ”ということが歌われているのですが、それを聴いた時には身震いしました。まさに今の自分に必要な作品だな、と強く思ったんです。
先輩役者から学んだ、殻を破る方法
映画やドラマで主演を務める機会が増えている上白石さん。その人気ぶりについて聞くと、「ありがたいことなんですが、いつも自分に自信はないんですよ」と本音を明かす。
上白石さん:自分が出演している作品は、どれを観ても“あぁ、下手だなぁ”って思ってしまうんです。この仕事、向いてないんじゃないかなって思うこともあります。
そもそも、あんまり人前に出て行きたくないタイプですし(笑)、自分の選択にも、自分自身にも、自信がありません。基本、ネガティブなんですよ。
自信はない。自分にできるのだろうか、といつも思うーー。それでもいくつもの挑戦を繰り返し、数々の壁を乗り越えてきた上白石さんなりの限界突破の方法は「バカになること」だという。
上白石さん:私自身は、いつもどこか自分にストッパーをかけてしまうタイプ。でも、それだと自分の殻を破ることができません。とにかく一旦頭で考えるのはやめて、“バカになる”ようにしています。
殻を破って、バカになる。その方法は、舞台に出演した際に、ある先輩役者から学んだという。
上白石さん:精神的に壊れてしまう人を舞台で演じたことがあるのですが、そのシーンがどうしてもうまくできなくて。どこか感情を抑え込んでしまって、大胆に演じ切れずにいたんです。
そうしたら、舞台でご一緒させていただいた神野三鈴さんが自分の殻を破る方法を教えてくれたんです。それが、本番前に思いっきりバカになること。例えば、ウォーミングアップのときに全身を大きく使って『うわぁ~~!!』って思いっきり叫ぶ、というもの。
他の人が偶然見たらびっくりしちゃうと思うんですけど(笑)、いったん思い切りバカになって、大声を出して体をのびのびと動かす。それを毎日繰り返していたら、ある日その難しかったシーンが自然とできるようになったんです。
上白石さん:頭であれこれ考えてやっているうちは、やっぱりダメなんですよね。自分が『これくらいでいいかな』って思っているなら、実際はまだまだ出来ていない証拠。理性みたいなものを一回全て放り投げることも時には必要なんだな、と学んだ瞬間でした。
今作でも、ポピーという役を通じて新たな殻を破ったという上白石さん。この経験が、次につながると確信している。
上白石さん:人間って、自分のストッパーを外して殻を破ったときにものすごい輝きを放つし、周囲の人を巻き込むことができる力が生まれると思うんです。突き抜けるためにはエネルギーがいるけれど、その分、それができると影響力があるんだな、と。この経験を今後の作品に生かしていきたいですね。