すっかり傷んだのを見計らってから花を捨てるーーそれは「捨てどき」ではありません。まだきれいなうちに処分するのが正しい判断。これって、ズルズルと付き合ってきた恋人と、修羅場を迎える前にきれいに別れるのと、ちょっと似ているのかもしれません。

「その花、もう捨てちゃうの?」

花屋のおばさんが、バケツからまだきれいに見える花をつかみ出し、迷いのない手つきでゴミ袋に入れている。「由樹子さん、あんたいつも腐ってから捨ててるの? 運気落ちるよ」

メガネの奥の細い目をさらに細くしてニヤニヤ笑いながら、おばさんは怖いことを言う。

おばさんによると、人は自分が世話をしている植物がダメになる姿を見ると、心理的にダメージを受けるらしい。植物を世話すると脳内にα波が出て心身ともに落ち着くが、その植物が壊れるとβ波が出て心理的に動揺し興奮する。これは実験により科学的に証明されているそうだ。

私、いつも花が完全に傷むまで放置しちゃうけど、それって最悪なわけね……? 私はドキッとする。

「でもおばさん、腐る直前ってどうやってわかるの?」
「簡単さ、茎の色をみればいいんだよ」

チェックすべきポイントは2ヶ所。水についた茎の切り口付近と、花と茎の境目だ。

(1)切り口付近の茎が、きれいな緑色から濁った茶色に変わってきたら、変色した部分の茎を切る。茎が短くなったぶん、背の高い花瓶から低い花器に活け替えるといい。しかし、(2)花と茎の境目の部分がそのような色になったら傷む寸前、捨てどきなのだそうだ。

花は腐る前に捨てる。そうすれば運気は上がる。
(画像=『DRESS』より引用)

おばさんの話を聞いてから、家に飾ってあったガーベラは一度茎を短く切って、一輪挿しから背の低い花器に活け替えた。
5日ほど飾った今日になって、花と茎の境目が変色しているのに気づいた。茎を触ると少し柔らかい。まだ見た感じはきれいだし、やっぱりもったいない気がする。でも、茎がグニャリと曲がり、テーブルに突っ伏したようになった花を見るのは嫌だ。悪臭漂うネバついた花瓶を洗うのも気が重くなるだろう。
 
きれいなうちに花を捨てることは、修羅場になる前に男と別れるのにちょっと似ている気がする。明日はもう少し状況がよくなるかもしれない。わずかな期待のせいで別れる踏ん切りがつかないでいるうちに、ドロドロになってしまう。早めに執着を捨てることが自分のメンタルを守ることでもある。

「我が家を明るくしてくれてありがとう」

私は小さい声でそう言って、ガーベラを新聞紙にくるみ、そっとゴミ箱に入れた。

花は腐る前に捨てる。そうすれば運気は上がる。
(画像=『DRESS』より引用)

+++ もなみのちょい足しポイント +++

(1)の「切り口付近の茎が、きれいな緑色から濁った茶色に変わってきたら、変色した部分の茎を切る」という作業を「切り戻し」といいます。茎の変色以外にも、一部の花や葉がしおれる、花がポロポロこぼれ始めるなどの状態になったら、花が傷んできたサイン。水替えのときに茎を切り戻し、傷んだ部分を取り除いてあげると花が長持ちします。

それでもいつか花は枯れるものですから、傷みに気づいたら思い切って早めに処分! で、心のコンディションも整えていきましょう。


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