2030年までに世界共通認識で達成するために掲げられた、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)、SDGs。学校教育や企業の行動計画、指針などにも取り入れられ始めています。とは言え、その目標内容の一つ一つについて、自分のことに落とし込んでいくのは難しいと感じる方も多く、特にこれからの時代を生きる子どもに、親としてどう話をすればいいのか、どう接点を作ればいいのか漠然と疑問に思っているパパ・ママもいるのではないでしょうか。

前編に続き、今回の後編では、子どもにもわかるようにイメージしやすい伝え方や、企業・家庭での取り組み方を中心に、SDGsを親子で考えていく方法を話し合いました。

【座談会企画 後編】小学校の教科書にも載っている“SDGs”。親子で話すヒントとは?
(画像=左上から 佐々木つぐみさん、日下部奈々さん、斎藤明日香さん 左下から矢澤修さん、永見薫、小山佐知子、『LAXIC』より引用)

<座談メンバー>
■佐々木つぐみさん
地域×SDGsの実践者で三児のママ。一般社団法人渋谷区SDGs協会理事。息子さん、娘さんが同法人キッズアンバサダーとして活動中。
■日下部奈々さん
企業×SDGsの実践者で二児のママ。ソフトバンク株式会社SDGs推進室に所属。
■齋藤明日香さん
株式会社VOYAGE MARKETINGでWebディレクターを務める三児のママ。SDGsには詳しくないが、環境保護、エコロジーやゴミ問題に関心がある。
■永見薫
LAXICライターであり、再生可能エネルギー会社で働く一児のママ。サスティナブル分野や地域活動に興味がある。

<ファシリテーター>
株式会社イースマイリー代表取締役 矢澤修さん
LAXIC編集長 小山佐知子

将来、大好きなおすしが食べられなくなる!?

矢澤修さん(以下、敬称略。矢澤):ここまでみなさんのお話を聞いていて感じたのは、SDGsは、自分の生活から距離のあることではなく、私たちの生活の延長線上にあるもの、ということ。暮らしとつながっていることだから続けていきやすい。

佐々木つぐみさん(以下、敬称略。佐々木):そうですね! ママたち向けには「電気をこまめに消す」とか、「水を出しすぎない」といった小さなアクションが大事だと伝えています。「2050年にはプラスチックの量、海ゴミの量が魚より増えるんだよ。自分の子どもがそのときにお魚食べられなくなっちゃったらどう?」って。

「自分たちは関係ない」ではなく、「今と未来は行動でつながっているんだよ」ということを知ってほしいなと思います。「世界が!」とか、「日本が!」とか、そんな壮大なことではなく、自分たちの暮らしに関係があることだと分かればきっと行動も変わってくると思うんです。

矢澤:子どもに伝えるときには、さらに自分の生活の中でイメージできるような流れを作ることが大事ですよね。たとえば、「プラスチックが海にいっぱいになってしまって、お魚さんが減ってしまったら、大好きなおすしが食べられなくなるよね?」って。子どもの頭の中でイメージができるようになると、意識がガラッと変わりそうですよね。

佐々木:そうそう、そんな感じです。子どものワークショップでも同じような伝え方をしていますよ。

矢澤:こうした会話のきっかけやタネを自分の中でいくつか見つけておくと、親子の会話や行動の幅がどんどんと広がっていきそうですね!

日下部さんが前編でおっしゃっていたように、「パパやママが働いている会社ってこんなにいいことをしているんだよ!」と誇りを持って話せるのは、とても大切じゃないかなと思います。そういった思いを、家庭にも浸透させるために、企業ではどんなことを実施しているのでしょうか?

日下部奈々さん(以下、敬称略。日下部):矢澤さんがおっしゃるとおりで、企業として「SDGsについて取り組んでいますよ」ということを自慢できるようにしたいと思っていて。まずは会話のきっかけだったりコミュニケーションツールになるものを作ろうと、SDGsのアイコンやツールを作って使い始めました。

そうすると「あ、ソフトバンクグループではこんなことやっているんだな」って気付いていただけるし、お客様やお取引先との会話が進むようにもなったんです。取り組みを始めてから取った社内アンケートでは、社員2万人のうち、99%が「取り組みを知っています」と答えたんですね。

矢澤:99%とは、素晴らしい浸透率ですね。

日下部:これまでにないインパクトです。ここからは具体的に「パパはこんなことしているよ、ママはあんなことしているよ」と、会社ではなく自分を主語にして考えたり、コミュニケーションをとるような流れを作っていけるようにしたいなと思っています。そうすると、世界や、国、経営者とか遠い世界のことじゃなく、「自分もやってみよう」と身近なことに思えますよね。

親がしっかりとリテラシーを持って、子どもに伝えていく

【座談会企画 後編】小学校の教科書にも載っている“SDGs”。親子で話すヒントとは?
(画像=『LAXIC』より引用)

日下部:SDGsの大事なことって、実は17の目標のゴール同士のつながりを意識することだと思っています。

矢澤:というと?

日下部:たとえば、NO.5の「ジェンダー平等を実現しよう」についてお話しすると、日本の課題の一つにジェンダーギャップ(※1)があるんですね。女性が男性並みに社会に参画するようになれば、GDPが20%も伸びると言われています。

矢澤:20%もですか…!

日下部:ジェンダーギャップが解決すれば、働きがいも得ることができ、さらに経済成長も促され、複数のゴールに影響するんです。

さらに女性が社会進出をすれば、世帯収入が増えるので、子どもの教育の質も向上します。今ひとり親世代が増えていて、子どもの貧困も進んでいますよね。こういったことも、女性の社会進出が進めば解決につながりやすくなるんです。一つが良くなることで、まさにドミノのように色々な課題が解決していきます。

矢澤:ジェンダーギャップという一つの課題が解決したことでの派生効果が大きいですね。

日下部:そうなんです。こういうことを意識していると、子どもに話をするときにも、「女の子だからバレエをしなさい」とか「男の子だからサッカーをしなさい」とは話さなくなりますよね。子どもとの接し方が変わるのではと思います。

矢澤:これ、頭で分かっていても「男の子なんだから」とか思わずつい言ってしまうので、気をつけたいです(苦笑)

日下部:分かります(笑)。だけどやっぱり親のリテラシーが大事なので、親の意識次第で子どもとのコミュニケーションも変わるんですよね。たとえば、プログラミングが好きでやっている女の子が、「女の子なのにすごいね!」って言われてしまうと、「女の子がプログラミングやったらダメなの?」と萎縮してしまう。そういうことも実際に女の子の理数系離れにもつながっていると思うんですよね。

佐々木:言葉の影響力って大きいですよね。親が言わなくても、友だちや友だちの親に言われることもありますから。そういうときに親がちゃんとフォローできればいいですよね!

齋藤明日香さん(以下、敬称略。齋藤):なるほど、友だちや友だちの親に言われることもあるんですね。親が全て把握するのは難しいにしても、日頃から信頼関係があれば子どもが「今日こんなこと言われちゃった」と話してくれると思いますし、わが子の味方になれる親でありたいなと思います…!

LAXIC編集長小山(以下、小山):LAXICの読者も、そういったジェンダーギャップに悩んでいる方は多いです。お子さんとの関わり方の具体的な事例があればお伺いしたいです。

佐々木:たとえば「ズボンの制服を着たい」と話す娘さんにママが理解を寄せて、学校に掛け合ったら、制服にズボンを導入してくれたということが実際にありました。ママが子どもと対話ができていた良い事例だと思います。

永見薫(以下、永見):男の子の遊び、女の子の遊び、と遊びの中でもジェンダーギャップを感じることがあります。子どもの保育園では、男の子もおままごとやお人形遊びを自然に取り入れているんですが、とても大事ですよね。自然に子どもたちの意識づけができているなと思います。

齋藤:わが家には男女両方の子どもがいるのですが、親が仕向けたわけではなく、女の子はお姫様ごっこが好きで、男の子はサッカーが好きで。それはそれで、個性として大事にしたいと思っています。

矢澤:ジェンダーについてもですが、今はバービー人形もふくよかな体型の物が売られていたり、美の基準も一つではない、それぞれの個性を尊重する時代になってきています。その中で親子間で「言っちゃいけない」というタブーの空気をつくらないことも大切。「あなたはこれが好きなのね」と、お互いにオープンに話せる関係性を作りあって、個性を受け入れていきたいですね。

日下部:親がしっかりリテラシーをつけて、子どもに伝えていく。次の世代に負を残さないようにしたいですよね。

(※1) ジェンダーギャップ指数では、日本の男女格差は2021年3月時点で156カ国中120位)。