東京・新宿というと大都市圏ですが、同じ新宿区でも早稲田や神楽坂など、歴史が古くその姿が今に残る地区が近くにはあります。この地で活躍した文豪・夏目漱石、世界的アーティスト・草間弥生、昭和の日本の洋画を牽引した東郷青児、それぞれ個の作家に焦点を当てたミュージアムをご紹介。
草間弥生美術館
ドット柄でお馴染みのアーティスト・草間弥生の美術館。世界各国の著名な美術館や芸術祭で大掛かりな作品を発表してきた作家の、より個人としての表現にスポットを当てたものです。
HPには以下のようなコンセプトが綴られています。
アーティスト自身の意志に基づいた個人美術館が恒常的な活動を開始することは、前衛芸術家としての彼女の他に類例のない果敢な戦いの軌跡をより深く理解し、愛によって世界を救済しようという真摯な思想に触れていただくための、従来にない貴重な機会となるに違いありません。
出典:yayoikusamamuseum.jp
外観からもドットが見え、エントランススペースに入る光のシルエットが美しい空間。エレベーターももちろん草間弥生仕様です。
年2回のコレクション展を基本とし、小規模ながら、世界の美術館や屋外芸術祭とは異なる視点で作品を見ることができるのが見どころです。
2021年3月までは、幻覚や内面世界のヴィジョンを視覚化した作品シリーズの企画展が行われており、様々な「草間弥生ワールド」が広がっています。時間ごとの人数制限をしていることもあり、参加型の作品もじっくり体感することができるのも楽しみのひとつ。
屋上には野外作品と新宿の街並みが広がり、芸術祭にきたような気分になれます。同じ最上階には書籍コーナーもあり、童話『人魚姫』に草間彌生が描いた挿絵が施された本など、展示作品以外のコンテンツも散りばめられています。
強烈なインパクトを放つ作家の、個人としての表現を重視した美術館。今までのイメージとは異なる、新たな出会いがあるかもしれません。
漱石山房記念館
作家・夏目漱石の邸宅跡に建てられた記念ミュージアム。千駄木からこの地に移ってきてから、文豪たちの集まるサロンにもなっていた場所で、夏目漱石の足跡を今に伝えるミュージアムとなっています。
建物の内部に、再現した邸宅が収まっているようなつくりになっていて、資料と見比べるととても再現度が高いのがわかります。夏目漱石の執筆部屋も再現されています。
当時ここにあった夏目漱石の蔵書は、死後東北大学に移されたのですが、その直後に戦争が起こり、ギリギリ戦禍を免れたのだそう。そのおかげで、彼がどんなものを読んでいたのかを今でも知ることができるのだと思うと、また見る目も変わってくるのではないでしょうか。
無料ギャラリーや書籍閲覧スペースも含む展示スペースのうち、有料エリア(500円)にはぜひ足を踏み入れるのをおすすめします!特に2階の資料展示は出版当時の現物を見ることができ、アートやデザインが好きな人にはたまらない、見応えのある資料ばかりです。また『三四郎』『倫敦塔』『虞美人草』などの代表作を、年代や傾向とともに知ることができる展示もポイント。撮影禁止のため写真がないのですが、個人的にはここが一番の見どころです。
2021年2月からは上記に加え、夏目漱石の当時の書籍の装丁を手掛けた津田青楓の企画展が開催されており、常設展に加えてさらにいろいろな当時の書籍を見ることができます。『道草』の初版本の美しい野の花の絵や、刺繍や更紗など素材に凝ったものなど、今あっても魅力に感じるものばかり。今で言う文庫本のような「縮刷版」も多く手掛けています。
併設のCAFE SOSEKIでは、コーヒーや紅茶の他、漱石が愛した祇園坊柿のアイスクリームをいただけます。日差しがとても気持ちの良い空間で、猫グッズもたくさん売られています。
早稲田と神楽坂の間の静かなエリアにある夏目漱石のミュージアムを訪れて、文学とロマンに触れてみてはいかが?