年金は老後の生活資金の柱となる収入ですが、受け取る時期や家族構成などで年金額が変わることはご存知でしょうか。年金制度をうまく活用することで、老後貧乏を避ける助けになるかもしれません。そこで今回は、知っておきたい年金の制度と、60歳以降の働き方を組み合わせた年金の活用法をご紹介します。
年金の繰下げ受給の活用
老齢年金は65歳から受給するものと思っている人も多いかもしれません。しかし、65歳で請求せずに、66歳以降に申し出た時点から繰下げて請求することもできます。
そして、繰下げ受給の請求をした時点に応じて、1ヵ月当たり0.7%増額された年金を生涯受け取ることができます。
これまでは70歳まで繰下げ受給が可能でしたが、2020年に成立した年金制度改正法により、2022年4月からはその上限が75歳まで引き上げられることになりました。各年齢における増額率は表1のようになっています。健康で長生きが見込めるなら活用を考えましょう。
表1.繰下げ請求と増額率
請求時の年齢 | 66歳 | 67歳 | 68歳 | 69歳 | 70歳 | 71歳 | 72歳 | 73歳 | 74歳 | 75歳 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
増額率 | 108.4% | 116.8% | 125.2% | 133.6% | 142% | 150.4% | 158.8% | 167.2% | 175.6% | 184% |
また、この繰下げ受給の請求は、老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれに時期を選択できます。
もしもの時の一括受取
前述の繰下げ受給を活用し、73歳から年金を受給するつもりで、それまでは貯金を取り崩しながら生活していたけれど、72歳の時に健康上の理由などで急にまとまったお金が必要になることもあるかもしれません。その時は年金を5年分さかのぼって一括して受け取ることもできます。
例えば、本来72歳から受け取れば158.8%に増額された年金が生涯受け取れますが、72歳の時にまとまったお金が必要になった場合、過去5年間、つまり67歳から72歳までの年金を一括して受けとることになります。この場合、年金額は5年前の67歳時点で繰下げ請求したとみなされます。
つまり、116.8%に増額された年金の5年分を一括で受け取り、その後は同じく116.8%に増額された年金を生涯受け取ることになります。
加給年金は年金の家族手当
65歳の年金受給者(厚生年金の加入期間が20年以上ある人)に、生計を維持している年下の配偶者や子供がいる場合、老齢厚生年金に加給年金がプラスされます。つまり、加給年金は老齢厚生年金の家族手当のようなもので、配偶者が65歳になるか、子供が18歳になるまで受け取れます。
配偶者の加給年金額は2021年度で最高39万500円(年間)と、それなりに大きな額です。ただし、気をつけなければいけないのが、老齢厚生年金を繰下げ受給すると加給年金額の受給時期も遅くなる上、加給年金は繰下げによる増額がないことです。つまり、単純に繰下げた年数分だけ加給年金が無くなることになります。
ただし、前述のように繰下げ受給は老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれに対して行えます。つまり、老齢厚生年金は65歳にして加給年金は受け取りつつ、老齢基礎年金だけ繰下げするといった受給方法も有力な選択肢として考えられるでしょう。
60歳以降働くと年金がストップされる?
1961年4月1日以前に生まれた男性、または1966年4月1日以前に生まれた女性は、65歳になる前でも「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。少し年金に詳しい人であれば、働きながら年金をもらうと年金がストップされる可能性があることを知っているかもしれません。
確かに現行の制度では、年金と報酬の合計が月額28万円を超えると年金の支給が一部または全額停止されます。しかし、上述の2020年度の年金制度改正法で、2022年4月以降その額は47万円に緩和されることになりました。60歳以降も働きたい人にとっては環境が良い方向に整備されます。
60歳以降も会社員として働けば、収入が得られるだけでなく、将来もらえる年金の額も上積みされます。結果として老後貧乏を避ける有力な方法となるはずです。
長く働く&年金の活用で老後貧乏を避けよう
今回ご紹介したように、年金の受給の仕方にも工夫する余地はあります。働けるうちは働くことはもちろん、年金の受け取り時期や加給年金との折り合いも含め、ライフプランにあった受け取り方を調整することで、老後貧乏を回避しましょう。
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。
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